三狂人
大阪圭吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)赤沢《あかざわ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)段々|酬《むく》い

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)こ[#「こ」に傍点]うるさい
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          一

 赤沢《あかざわ》医師の経営する私立脳病院は、M市の郊外に近い小高い赭土山《あかつちやま》の上にこんもりした雑木林を背景に、火葬場へ行く道路を見下すようにして立っているのだが、それはもうかなり旧式の平屋建で立っていると云うよりは、なにか大きな蜘蛛でも這いつくばったという形だった。
 全く、悪いことは続けて起るとはうまいことを云ったもので、今度のような世にも兇悪無惨な惨事がもちあがる以前から、もう既に赤沢脳病院の朽ちかけた板塀の内には、まるで目に見えぬ瘴気《しょうき》の湧きあがるように不吉な空気が追々《おいおい》色を深め、虫のついた大黒柱のように家ぐるみひたむきに没落の道をたどっていたのだった。
 もっとも赤沢医師の持論によると、いったい精神病者の看護というものは、もともと非常に困難な問題で、患
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