お蔭で、オマンマを食べている赤帽の伝さんである。成る程、一見普通の婦人客と区別のつかないような平凡な婦人なぞいつでも満員で、降車客もゴッタ返すような混雑を呈するとはいいながらも、その妙な三の字を書いた荷札つきの手荷物を持った、三時の急行の三等車の三輛目の婦人客に、いつからともなく気がついたとしても、不思議はないのであった。
 尤も、伝さんが、いちばんはじめその妙な婦人達のことに気のついたきっかけ[#「きっかけ」に傍点]というのは、必らずしもその手荷物ばかりでなく、いつもその手荷物を持たされる、例の人の好さそうな出迎えの男にもあった。
 その男は、成る程人の好さそうな顔をしてはいたが、余り風采の立派な男ではなかった。いつでも薄穢《うすよご》れのした洋服を着て、精々なにかの外交員くらいにしか見えなかった。毎日三時少し前になると、入場券を帽子のリボンの間に挾んで、ひょっこりプラット・ホームへ現れ、ほかの出迎人の中へ混って、汽車の着くのを待っているのであった。汽車が着くと、男は必らず三等車の三輛目の車へはいって行って、やがて、例の奇妙な婦人客のお供をして降りて来るのであるし、そのお客が男を従えて降りて来る頃には、もう伝さんは自分のお客のことで一生懸命になっているので、その顔を見覚えることなぞ到底出来よう筈もないのであるが、出迎えの男のほうは、なにしろ殆んど毎日のことであるので、いつの間にか顔も見覚えていたのであった。

          二

 最初のうち伝さんは、その出迎男《でむかえおとこ》を、何処かインチキなホテルの客引かなんかであろうと考えた。そして、五月蠅《うるさ》い商売|敵《がたき》だと思った。しかし、だんだん日数が重なるにつれて、どうも只《ただ》の客引にしては少し腕がよすぎると感づき、つづいて手荷物の三の字と、三時の三等車の三輛目に気がついて、どうやらこれは只の客引なぞではなく、何か曰《いわ》くのある団体の、一種の案内人――といったようなものではあるまいかと、考えなおすようになったのであった。そして結局、伝さんの疑問の中心は、まずその、毎日三時の汽車で上京して来る奇妙な婦人客の上へ、注がれるのであった。
 ――妙な女達だ。よくよく三という字に、惚れくさ[#「くさ」に傍点]っているらしい。伝さんは、あせらずゆっくり考えた。
 しかし、もともと余り物事を深く考える
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