たも知ってるでしょう。私が此処へ着いた時に、札幌から監督へ電話が掛って来たでしょう。あれですよ。あれに違いないんです。この考えには、間違いはありませんよ。私は自分の疑惑を確かめるために、さっき思い切って、小樽の取引所へ電話を掛けて見たんです。するとどうです。中越炭坑株が、今日の午前の十一時頃から、かなり大きく動き出しているんです。十一時頃[#「十一時頃」に傍点]からですよ。係長。現場の我々よりも会社の重役のほうが、数時間前に滝口坑の運命を知っていたんです」
 技師はそう云って、もう見えはじめた事務所の灯のほうへ、なにかまだ解けきらぬ謎を追い求めるような虚《うつ》ろな視線を、ボンヤリ投げ掛るのであった。
 ところが、それから十分もしないうちに、竪坑口で逃げ惑っている人びとを思わず釘付けにするような、不意にグラグラッと異様な地響きが、滝口坑全盤にゆるぎわたった。そして間もなく、坑側の流水溝には、何処から湧き出づるのか夥しい濁水が、灼熱した四台の多段式タービン・ポンプを尻目にかけて、一寸二寸とみるみる溢れあがって行くのであった……。
[#地付き](「改造」昭和十二年五月号)



底本:「と
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