て行った。
続いて今度はお品が呼び出された。女が椅子につくと、巡査が係長へ云った。
「この女には、発火の原因に就いても調べるんでしたね」
係長は黙って頷くと、女へ向った。
「安全燈《ランプ》から発火したんだろうな?」
「……」
「火元は安全燈《ランプ》だろう?」
お品は力なく頷いた。
「お前の安全燈《ランプ》か、亭主の安全燈《ランプ》か、どちらだ?」
「わたくしのほうです」
「じゃアいったい、どうして発火したのか。その時の様子を詳しく云ってみろ」
お品はこの問にはなかなか答えなかった。が、やがてポロッと涙をこぼすと、小声でボソボソと俯向いたまま喋りだして行った。お品がその時のことをどんな風に述べていったか、しかしそれは、ここでは云う必要がない。お品の陳述、既に物語の冒頭に記したところと寸分違わなかった。
さて女の告白が終ると、係長は姿勢を改めて口を切った。
「いずれその時のことは、またあとから発火坑の現場について、お前の云ったことに間違いないか調べ直すとして……これは別のことだが、お前はあの時、兄に抱かれて納屋へ帰ったと云うが、確かにそれに間違いないか?」
しかしこれは、訊ねる方に無理があった。お品はあの時、恐怖の余り顛倒して岩太郎に抱えられた筈であるから、それから岩太郎と共に真ッ直ぐに納屋へ連れ帰されたかどうか、女自身にも覚えのない筈であった。しかし係長にして見れば、この場合お品も岩太郎も、共に怪しまないわけにはいかなかった。そこで係長は重ねて追求しようとした。
が、この時事務所の扉があいて、さっきの小頭が見張所の番人を連れて戻って来た。
カラーのダブついた詰襟の服を着て、ゴマ塩頭の番人は、扉口でジロッと岩太郎とお品を見較べると、係長の前へ来て云った。
「この二人でございますね? ハイ、確かに、十時二十分頃から十時半までの間に、ケージから坑外《そと》へ出て行きました」
「なに、十時半より前に出て行った?」
「ハイ、それはもう確かで、そんな時分に坑夫で坑外《そと》に出たのは、この二人だけでござんすから、よく覚えとります」
「そうか。では、それから今しがたここへ連れ込まれるまでに、一度も坑内へ降りはしなかったな?」
「ハイ、それは間違いございません。ほかの番人も、よく知っとります」
「そうか。よし」
番人が帰って行くと、係長は巡査と顔を見合せた。
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