「しかし、もしもその機関車の操縦室《キャッブ》の床に溜った血の量が、全体に少くなって来たのだとしたなら、雫の大きさは同じでも、落される間隔は、あたかも機関車の速度が急変したかのように、長くなるのじゃないかね?」
「ふむ。仲々君も、近頃は悧巧《りこう》になったね。だが、もしも君の言う通り、そんなに早く機関車の方の血が少くなって来たのだとしたなら、この調子では、もう間もなく血の雫は終ってしまうよ。――其処まで行って見よう。果して君の説が正しいか、それとも、僕の恐ろしい予想に軍配が挙がるか――」
 で、私達は二人共亢奮して歩き続けた。
 もうこの附近はW駅の西端に近く、二百|米《メートル》程の間に亙って、全線路が一様に大きく左にカーブしている。私達は幅の広いそのカーブの中を、懐中電燈で血の雫の跡を追いながら、下り一番線に沿って歩き続けた。が、間もなく私の鼻頭には、この寒さにもかかわらず、無気味な油汗がにじみ始めた。――私は、喬介との闘いに敗れたのだ。
 線路の横には、喬介の推理通り行けども行けども血の雫の跡は消えず、タンク機関車73号は、明かに急速度を出したらしく、もうこの辺では、血の雫の跡
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