のでもなければ、雪がやんでしまったあとから人が通ったのでもなく、実に人の歩いている最中に、その進行の途中で、いままで降っていた雪がやんだわけです……これでもう、あの消えた足跡の正体はお判りになったでしょう。つまりあの足跡の主は、この家の窓からあの時に出て行ったのではなくて、逆にはいって来たわけです。しかも今夜雪がやんだのは恰度八時頃でしたから、そのサンタ・クロースが町の方からやって来てこの家に窓からはいった時間も、まず八時頃と見当がつくわけです」
「なるほど、よくわかりました」私は頭をかきながらつけ加えた。「そうすると、あの片杖の跡はどういうことになりますか?」
「あれですか、あれはなんでもありません。あなたが始め考えられたように、やはりそのサンタ・クロースは荷物を片手に持っていたのです。しかしそれは、子供ではなくて、あの部屋に転っていた雪に濡れたボール紙の大きな玩具箱だったのです。サンタ・クロースの贈物だったのです……」とここで田部井氏は言葉を改めて、「さア、これでもう大分わかって来たでしょう。窓の足跡は確かに外から入って来たものであり、その足跡のほかに出て行ったらしい足跡もなく、家の中にもサンタ・クロースの姿はおろか子供の影もないと云えば、この表玄関からサンタ・クロースと子供は出て行ったに違いないのです……時に、あなたが最初ここへ駈けつけられた時に、表口《ここ》にそれらしい足跡はありませんでしたか?……その連中はあなたより先にここを出て行ったのですよ」
「さア、そいつは。……なんしろあわてていましたので……」
「じゃア仕方がありません。ひとつ面倒でも、この沢山の跡の中から、片杖を突いた跡を探しましょう」
 田部井氏は早速屈み腰になって、それらしい跡を探しはじめた。むろん私もその後に続いて、仄白い雪明りの中をうろつきはじめた。表通りの弥次馬連は、なに事が起ったのだろうと、好奇の眼を輝かして私達のしぐさを見守った。
 雪の上には、私達や警官達のスキーの跡がいくつも錯綜して、なかなか片杖のスキーの跡はみつからない。例のスキーの跡の終点まで行った警官達が、やっと帰って来たとみえて、家の中がなんとなく賑かになった。
 その時、田部井氏が私のところまで来て、不意に問いかけた。
「あなたより先にここへ来たのは、あのA組の美木でしたね……美木は大人用のスキーをつけていたでしょう
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