いうと……サンタ・クロースが出現したわけです」
私は少からず吃驚《びっくり》してしまった。
「しかし、随分惨酷なサンタ・クロースですね?」
「そうです。飛んでもないサンタ・クロースですよ……恐らく悪魔が、サンタ・クロースに化けて来たのかも知れません」とここで田部井氏は、急に真面目な調子に戻って、立上りながら云った。「……いや、しかし、どうやらその化けの皮も、剥がれかかって来ましたよ。……私には、この謎がもう半分以上、判って来ました。さア、これからひとつ、サンタ・タロースのあとを追ッ駈けましょう」
田部井氏は、居間の入口まで行って、その中で頻《しき》りに現場の情況をノートしていた警官へ、外出を断ると、私へ眼配《めくばせ》しながら玄関口へ出て行った。私は、わけが判らぬながらも、自信のありそうな田部井氏の態度に惹かれて、ふらふらと立上った。そして、これから追跡しようとするあの奇怪なスキーの条痕《あと》や、そして又その条痕《あと》の終点で、さだめしいま頃、腕を組んで夜空を振仰いでいるに違いない肥っちょの係員の姿を思い浮べながら、田部井氏のあとに続いて行った。
けれども戸外《そと》に出た田部井氏は、どうしたことか、裏の窓口へは廻ろうとしないで、生垣の表門へ立って、前の通りをグルグル見廻しはじめた。そこの雪の上には、出入した幾つかの足跡が入り乱れ、近所の人達が、蒼い顔をして立っていた。いったいどうしたと云うのだろう。
「田部井さん。足跡は、裏の窓口からですよ」
「あああれですか」と田部井氏は振返って、
「あれはもう、用はありませんよ。私は、もう一つの条痕《あと》を探してるんです」
「もう一つの条痕《あと》ですって?」
思わず私は、そう訊き返した。
「そうですとも」田部井氏は笑いながら、「窓の外には一人分の跡があっただけでしょう。ね、あれでは往復したことになりませんよ。あそこからサンタ・クロースが出て行ったのなら、もう一つ入った跡がなければなりませんし、あそこから入ったのなら、出た跡があるわけですよ」とそれから、浅見家の屋根のほうを見上げてニヤッと笑いながら、「いくらサンタ・クロースだって、まさかあの細い煙突から、はいったなんてことはないでしょう……こいつは、ただのお伽噺《とぎばなし》ではないんですからね」
成る程、何処かから入って来た跡がなければならない筈だ。私は自分
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