てあったんでしょうなあ――』
 仕事を終った潜水夫《もぐり》は、そう言って大きく息を吸い込んだ[#「吸い込んだ」は底本では「吸い込だ」と誤記]。
 喬介は、矢島の肩に手を掛けながら、
『君。もう一つ訊くがね。工場の裏で二人に逢った時に、何故話を丸くしないでこんな酷《むご》い事をして了《しま》ったのかね?』
 喬介の質問に、キッと顔を挙《あ》げて矢島は、自棄糞《やけくそ》に高い声で喋り出した。
『こうなりゃあ、何も彼《か》もぶちまけちまうよ。三年前まで二人はあっし[#「あっし」に傍点]と一緒に天祥丸に乗り組んでいたんだ。ところが丁度《ちょうど》天祥丸がまだ新品[#「新品」に傍点]で南支那《みなみしな》へ遠航[#「遠航」に傍点]をやってた時だ。この前の船長で、しこたまこれ[#「これ」に傍点]を持ってた柿沼って野郎を、あっし[#「あっし」に傍点]が暴風《しけ》の晩に海ん中へ叩ッ込んで、ユダ[#「ユダ」に傍点]みてえに掴み込んでやがった金をすっかりひったく[#「ひったく」に傍点]ったのを二人が嗅ぎ付けて了《しま》ったんだ。そ奴《いつ》をあの晩ゴタゴタ並べて強請《ゆす》りに来たんだ。だから片付けちまったんだ。只《ただ》、それだけさ。』
『いやどうも、色々有り難う。』
 喬介はそう言って、警官に眼で合図した。
 喬介は、重苦しい冬の海を見詰めながら語り始めた。
『どうして源之助も殺されていると言うことが判ったのかだって? そりゃあ君、前後の事情を考え合せて、殆《ほとん》ど直感的にそう推定したんさ。すると君は、じゃあ何故《なぜ》源之助の屍体の沈められた場所が、あんなに簡単に判ったかって言うだろう。その説明は、山田源之助と一緒に殺された原田喜三郎の屍体が、今朝発見されるまでの行程を一通り説明すれば、それで充分なんだ。つまり、あの鉄工場の裏で突き殺された二つの屍体は、此処《ここ》まで運ばれ、重《おもし》を附けられて海中へ投げ込まれる。丁度《ちょうど》二号|船渠《ドック》の扉船《とせん》の直《す》ぐ側だ。それから四日|経《たっ》て昨日の晩だ。修繕の終った天祥丸は、K造船工場に暇乞《いとまご》いをして芝浦へ急行しなければならない。そこで出渠《しゅっきょ》の作業が始まる。第二号|乾船渠《ドライ・ドック》の扉門《ともん》の注水孔は、バルブを開いて、恐しい勢《いきおい》で海水を船渠《ドック》の
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