らとなく人々は、D50・444号を、「葬式《とむらい》機関車」と呼ぶ様になっていたんです。
 いや、学生さん。
 ところがここ二年前の冬に到って、このD50・444号が、実に奇妙な事故に、しかも数回に亙って見舞われたんです。
 それは二月に這入《はい》って間もない頃の、霜《しも》の烈しい或る朝の事でした。
 当時一昼夜一往復でY――N間の貨物列車運転に従事していたD50・444号は、定刻の午前五時三十分に、霜よりも白い廃汽《エキゾースト》を吐き出しながら、上り列車としてH駅の貨物ホームに到着しました。
 で、早速ホームでは車掌、貨物掛等の指揮に従って貨物の積降《つみおろし》が開始され、駅助役は手提燈《ランプ》で列車の点検に出掛けます――。一方、機関助手の杉本は、ゴールデン・バットに炉口《プアネス》の火を点けてそいつを横ッちょに銜《くわ》えると、油差を片手に鼻唄を唄いながら鉄梯子《タラップ》を降りて行ったんです。
 が、間もなく杉本は顔色を変えて物も言わずに操縦室《キャッブ》へ馳け戻ると、圧力計《ゲージ》と睨めッくらをしていた「オサ泉」の前へ腰を降ろし、妙に落着いて帽子と手袋を脱《と》り
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