は思わなかったよ……いや、僕の手抜かりだった。この娘は恐らく自殺なんだろう。と言うのは……いやとにかく、歩きながら話すとして、とりあえず十方舎へ出掛けよう……あの親爺め、可愛い娘のこんな死態《しにざま》を見たならきっと気狂いにでもなっちまうよ……」
 そう言って助役は、歩きながらこの奇妙な事件の最後の謎――つまり十方舎の親爺が豚を盗んだ動機を彼のその優れた直観力で、どんな風に観破《みやぶ》ったかと言う事を、手短かに話し始めたんです。
 いや、学生さん。
 ところがその助役の直観力って奴は、幸か不幸か当ってたんですよ。そしてその事の正しさは、間もなく検屍官の手に依って娘の懐中から発見された、意外にも「葬式《とむらい》機関車」の「オサ泉」宛の遺書に依って、いよいよ明かにされたんです。
 で、その娘の手紙なんですがね……実は、いま、こうして私が持ってるんですよ……いや、助役の話なんぞ繰返すよりも、一層《いっそ》の事この手紙をお眼に掛けましょう。それに第一私としても、いまここで、助役のそのしたり[#「したり」に傍点]顔な説明なんぞを、再び私の口からお話するのは、とてもつらいんです。と言うのは、
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