[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]十方舎のトヨより
……やれやれ、お読みになりましたかな……いや、手紙《そこ》にも書いてあります様に、助役の一行が十方舎へ乗込んだ時には、もうその娘の親爺は、脇腹から心臓めがけて大きな錐《きり》を突立てられたまま、造りかかりの棺桶の中へノメリ込む様にして冷くなっていましたよ……
いや、学生さん――
……これで、何故私が鉄道稼ぎを退職《やめ》る様な気持になったか、そして又何故毎年三月十八日、つまり十方舎の娘の命日に、こうしてH市の共同墓地へ墓参りに出掛けるか、お判りになった事と思います……え? ああそうそう……もうとッくにお判りの事と思いますが、実はこの私が、「葬式《とむらい》機関車」の「オサ泉」事、長田泉三なんです……いやどうも、永々と喋らして頂きましたな……どうやら、ボツボツH駅に近づいたようです……では、これで失礼いたします。
[#地付き](「ぷろふいる」昭和九年九月号)
底本:「とむらい機関車」国書刊行会
1992(平成4)年5月25日初版第1刷発行
底本の親本:「死の快走船」ぷろふいる社
1936(昭和11)年初版発行
初出:「ぷろふいる」ぷろふいる社
1934(昭和9)年9月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:大野晋
校正:川山隆
2008年11月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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