あったなら、なにもこんな風変りな品物を使わなくたって、例えば、人参でもいい、ごくありふれた餌で豚公を連れ出し、さて線路上へ来て、縄で縛るなんて面倒な事はせず、玄翁《げんのう》か何かで一度に叩ッ殺し、そのまま線路上へ投げ出して置く――が、しかし、この場合の犯人は、既に僕等も見て来た様に、実に不自然な、むしろ芝居|染《じ》みた道具立をしている。ね。ここんとこだよ。こんな風変りな特殊な品物を、しかも毎々利用するのは、それらの品物が、犯人が何よりも簡単に入手出来る様な手近なところに、つまり犯人が、それらの品物を商売している事を意味するんだ。で、僕のお願いと言うのはB町及びB町附近に、あの葬儀用の『貼菓子』と、抹香の製造販売をしている葬具屋が、有るか無いか君達二人に調べて貰いたいんだ」
 とまあそんな訳で、翌朝二人はB町へ出掛けたんです。
 ところが、小さな田舎町の事ですから、巡査派出所、町役場等で問い合せた結果、間もなく片山助役の註文に符合する様な葬具屋の無い事が判りました。
 で、二人の部下は力を落してH駅へ引返すと、助役にその旨を報告しました。すると助役は、意外にも嬉しそうな調子で、こう言うんです。
「多分そうだろうと思っていたよ。いや、それでいいんだ。君達の留守中に、僕は機関庫へ行って、あの『葬式《とむらい》機関車』の『オサ泉《せん》』が、いつも花環を買う店は何処だと訊いて見たら、直ぐ機関庫の裏手附近の、H市の裏町にある十方舎《じっぽうしゃ》と呼ぶ葬具屋である事が判ったんだ。そしてしかもその店では、『貼菓子』は勿論、抹香の製造販売もしているらしい事が判ったんだ。これから直ぐに出掛けよう。そして直接当って調べた結果、十方舎と、B町の何か――との間に、一週に一度ずつ何等かの関係の有る事さえ判れば、もう事件は、最も合理的に一躍解決へ進む事になるんだ」
 と、そこで早速彼等は出掛けました。
 そして機関庫の裏を廻って、間もなく薄穢い二階建の葬具屋――十方舎へやって来ました。
 助役は先に立って這入ると、早速馴れた調子で小さな花環を一つ註文しました。
 成る程、その店の主人らしい、頸の太い、禿頭の先端《さき》の尖《と》ンがった、赭《あか》ら顔の五十男が、恐ろしく憂鬱な表情《かお》をしながら、盛んに木の葉を乾かした奴を薬研《やげん》でゴリゴリこなしていましたが、助役の註文を受ける
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