「ミソ」に傍点]がくっ着いて来たんです。調査の結果、轢死地点は前回と同じB駅に程近いカーブの上り線路上である事が判りました。不思議と言えば不思議ですが、偶然――と言ってしまえばそれまでです。で、「オサ泉」も助手の杉本も、四十九日どころかまだ初七日にしかならない前の黒豚の花環の横ッちょへ、もうひとつの新しい奴を並べなければならなかったんです。
ところが、学生さん。
故意か、偶然か、又しても数日後の或る朝、同じD50・444号の車輪に、今度はさだめし柔かそうな白豚のミソ[#「ミソ」に傍点]がくっ着いて来たんです。助手の杉本は、早速鼻の下の煤を拭き取りました。まさに三度目です。時刻も場所も前二回と全く同じです。機関庫主任の岩瀬さんはとうとうB町の巡査派出所へワタリをつけました。
派出所の安藤巡査からの報告に依りますと、三匹の豚は、やはりB町附近のそれぞれ別々の所有者から、それぞれの時日に盗まれたものである事が判りました。が、何者の悪戯《わるさ》かサッパリ判りません。ただ「葬式《とむらい》機関車」D50・444号は、まるで彼岸会《ひがんえ》の坊主みたいに忙しかったんです。
でも、ここで私は、もう一度……いや、学生さん全く冗談じゃあないんですよ。本当にもういちど、同じ様な轢殺事件がもちあがったんです。――凡ての条件は、前三回と殆ど同じでした。轢殺《ひきころ》された豚は白豚で、トンネルの洞門みたいな猪鼻が……どうです、主働輪の曲柄《クランク》にチョコナンと引ッ掛って、機関車が走る度毎に風車《かざぐるま》の様にクルリクルリと廻ってるじゃあ有りませんか。
岩瀬機関庫、七原《ななはら》検車所の両主任は、カンカンに怒ってしまいましたよ。――全く、悪戯にしては少し度が過ぎるんですからな。で、早速機関庫助役の片山さんを指揮者とする三名の調査委員を選抜して、B町へ出張調査させる事になったんです。
さて、これから、その片山助役を大将とする連中の、奇妙な事件に対する所謂探偵譚――になる訳なんですがな、これが又なかなか面白いんです。で、まあとにかく、事件後その探偵連中から聞かされた知識の範囲内で、ひと通りお話いたしましょう。
この片山機関庫助役と言う人は帝大出身のパリパリでしてな、まだ鉄道としては新人の方なんですが、頭もいいし人格もあるし、それになかなか機智に富んだ敏腕家でして、いま
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