事業との差異を考えてみただけでもおよその見当はつくはずである。そればかりではない。映画が芸術らしい結構をそなえて以来今日に至るまで、我々映画芸術家の保有すべき当然の権利は毎日々々絶え間なく侵犯されつづけてきたし、現にきのうもきようも、(そしておそらくはあすもあさつても)、我々の享受すべき利益が奪われつづけているのは、我々の権利を認め、かつこれを保護してくれる法律もなく、また暫定的に適用すべき条文すらもないからにほかならないのである。
したがつて、我々映画芸術の創造にあずかるものが、真に自分たちの正当なる権利を擁護せんとするならば、何をおいてもまず映画関係の著作権法を一日もすみやかに制定しなければならぬ。しかして、映画芸術家の正当なる権利を擁護して、その生活を保護し、その生活内容を豊富にすることは映画芸術そのものを向上せしめるための、最も手近な、最も有効な方法であることを忘れてはならぬ。
さて、次にその実現方法であるが、これには二つの条件が必要である。すなわち、まず先決問題としては立法の基礎となるべき草案をあらかじめ我々の手によつて練り上げておくことであり、第二の段階としては、従業員組合の組織をつうじて、あらゆる機会に政府あるいは政党に働きかけて草案の立法化促進運動を果敢に展開することである。
右のうち、草案の内容については、私一個人としては相当具体的な腹案を持つているが、しかし、それを発表することは本稿の目的でもなく、また、それには別に適当な機会があると思うから、ここではくわしいことは一切省略しておく。
ただ、参考のため、私の意見の根底となつている、最も重要な原則だけをかいつまんで申し述べるならば、私は自分の不動の信念として、人間の文化活動のうち、特に創作、創造、発明、発見の仕事に最高の栄誉と価値を認めるものである。(未完)
底本:「新装版 伊丹万作全集1」筑摩書房
1961(昭和36)年7月10日初版発行
1982(昭和57)年5月25日3版発行
入力:鈴木厚司
校正:土屋隆
2007年7月25日作成
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