なぜならば会社は規定にないことまでは決して実行しないから。
つまり映画会社は従業員の生活の保障に対して具体的には何らの関心をも示していないのである。
いいかえるならば、映画会社はまだ世間並の企業会社として一応の形態を備えていないのである。かかる場所で働いている従業員の不安を考えてみるがよい。
彼らはなるほど会社間を転々する。なぜならばそれ以外に昇給の方法を知らないから。
彼らは盛んに会社から借金をする。なぜならば彼らにはほとんど賞与というものがないから。
また俳優などは入社に際してよく一時金というものを取る。なぜならば彼らには退職手当というものがないから。
なるほど一流の監督俳優だけは立派に暮している。なぜならば彼らは自分の力によって取るだけのものは会社から取るから。
しかしそれ以外のものはどうするか。どうすることもできない。ただ黙って働いているだけである。
しかるに、これでもまだ足りないのか。いまや、会社側は四社連盟によって堂々と団結し、このいくじのない無抵抗主義者たちに向かって華々しく挑戦してきたのである。
かくして日本映画界においては従業員よりも資本家たちのほう
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