の協定もある温度のもとにおいてはあとかたもなく消失するある種の化合物に似ている。
 我々は必ずしもあらゆる場合に従業員側の行動を正当づけようと試みるものではない。たとえば仕事の途中でこれを抛棄して他へ走るがごとき無責任な行動は社会人としても許し難いばかりでなく、それが往々にして、真摯《しんし》なる動機によって行動するものにまで累を及ぼすことは私のかぎりなく遺憾とするところである。
 しかしそれとこれとはまたおのずから別の話である。道徳上の問題は道徳的制裁によって解決すれば足りる。
 たまたま一部に不徳漢があったということは決して四社連盟を正当づける理由とはならない。
 不徳行為に対する制裁は不徳者一個人の範囲を超えてはならぬ。
 四社連盟は無辜《むこ》の従業員過半数の生命線を犯さんとする暴圧である。
 いったい映画従業員ほどおとなしいものはもはや現在の世の中にはどこにもいはしないのである。
 映画の従業員はまったくおとなしいのである。彼らは天下泰平の夢を見続けて、今に至るまで一つの組合さえ持たなかったのである。愚かな彼らは「芸術家」という一枚の不渡手形を、後生大事とおしいただいて、三十
前へ 次へ
全17ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊丹 万作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング