決して権威ある回答ではない。
戦闘機は燃料の制限を受けて行動半径が小さいのみでなく、飛行機の進歩に伴い、余り小型のものは、いろいろな掣肘を受け、大型機の速度増加に対して在来の如き優位の保持が困難となるし、大型爆撃機の巧妙な編隊行動と武装の向上によって、戦闘機の価値は逐次低下するものと判断されたのである。しかるに支那事変及び第二次欧州大戦の経験によれは、制空権獲得のためには戦闘機の価値は依然として極めて高い。
敵に爆弾を投ずる爆撃機の任務は固より重大であるが、将来とも空中戦の主体は依然として戦闘機であるとも考えられる。動力の大革命が行なわれ小型戦闘機の行動半径が大いに飛躍すれば、戦闘機は空中戦の花形として、ますます重要な位置を占める可能性がある。大型機は編隊行動と火力のみでなく、装甲等による防禦をも企図するであろうが、空中では水上のような重量の大きな防禦設備は望み難く、小型機はその攻撃威力を十分に発揮できる。空中戦の優者が戦争の運命を左右し、空中戦の勝負は主として小型戦闘機で決せられるものとせば、指揮単位が個人と言うのが正しいこととなる。
第十二問 最終戦争に於ける戦闘指導精神はどうなると思うか。
答 現時の持久戦争から次の決戦戦争即ち最終戦争への変転は再三強調したように、真に超常識の大飛躍である。地上に於ける発達と異なり、想像に絶するものがある。数学的発達をなす兵数(全男子より全国民)、戦闘隊形の幾何学的解釈(面より体)、戦闘指揮単位(分隊より個人)は別として、運用に関する戦闘隊形が戦闘群の次にどんなものになるかは、戦闘方法が全く想像もつかないのであるから判断ができない。同じく運用に関する戦闘指導精神が統制の次に、いかなるものであるかも、全く判断に苦しむ。それでこの二つは正直に白欄にしてあるのであるが、敢えて大胆に意見を述べることとする。
統制には、混雑と力の重複を避けるために必要の強制即ち専制的威力を用いると同時に、各兵、各部隊の自主的独断的活動は更に多くを要求されるのである。専制的強制は自由活動を助長するためである(二八頁)。即ち統制は自由から専制への後退ではなく、自由と専制を巧みに総合、発展させた高次の指導精神でなければならない。
専制は封建時代に於ける社会の指導精神であり、封建はすべての優秀民族が一度は経験したところである。文化のある時期には封建を必要とするのである。朝鮮の近世の衰微は、過早に郡県政治が行なわれ、官吏の短い在職期間に、できるだけ多く搾取しようとした官僚政治により、遂に国民の生産的、建設的企図心を根底的に消磨し、生活し得る最小限度の生産が、人民の経済活動の目標となった結果であった。封建君主がその領土、人民を子孫に伝えるため、十分にこれを愛惜する専制政治は、その時代には最もよい制度であったのである。しかし人智の進歩は遂に専制下では十分にその進歩的能力を活用し得ないようになり、フランス革命前後に優秀諸民族の間に自由主義革命が逐次実行され、溌剌たる個人の創意が尊重されて、文明は驚異的進歩を見た。
しかし、ものにはすべて限度がある。個人自由の放任は社会の進歩とともに各種の摩擦を激化し、今日では無制限の自由は社会全体の能率を挙げ得ない有様となった。統制はこの弊害を是正し、社会の全能率を発揮させるために自然に発生して来た新時代の指導精神に外ならない。戦闘指導精神が自由から統制に進んだと同一理由である(二八頁)。
新しく統制に入るには、自由主義時代に行き過ぎた私益中心を抑えるために、最初は反動的に専制即ち強制を相当強く用いなければならないのは、やむを得ないことである。殊に社会的訓練の経験に乏しいわが国に於て、ややもすれば統制が自由からの進歩ではなく自由から統制への後退であるが如き場面をも生じたのは、自然の勢いと言わねばならぬ。しかし統制によって社会、国家の全能力を遺憾なく発揮するためにも、個人の創意、個人の熱情が依然として最も重要であるから、無益の摩擦、不経済な重複を回避し得る範用内に於て、ますます自由を尊重しなければならない。元来、理想的統制は心の統一を第一とし、法律的制限は最小限に止めるべきである。官憲統制よりも自治統制の範囲を拡大し得るようになることが望ましい。即ち統制訓練の進むに従って、専制的部面は逐次縮小されるべきである。
準決勝戦時代の統制訓練により、最終戦争時代の社会指導精神は、今日の統制より遥かに自由を尊重して、更に積極的に国家の全能力を発揮し得るものに進歩するであろう。「戦争史大観」では、兵役がフランス革命までの傭兵時代に於ては「職業」であったのに、フランス革命以後「義務」となったが、最終戦争時代は更に「義務」から「義勇」に進むものと予断している(一一八頁及び付表第二)。英米の傭兵を
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