、要するに常温常圧の工業から高温高圧工業に、電気化学工業に変遷をして来る、そうして今までの原料の束縛からまぬがれてあらゆる物が容易に生産されるに至る驚くべき第二産業革命が今、進行しているのであります。それに対する確信があってこそ今度ドイツが大戦争に突進できたのであろうと思います。われわれは非常に科学文明で遅れております。しかし頭は良いのです。皆さんを見ると、みな秀才のような顔をしております。断然われわれの全知能を総動員してドイツの科学の進歩、産業の発達を追い越して最新の科学、最優秀の産業力を迅速に獲得しなくてはならないのであります。これが、われわれの国策の最重要条件でなけれはなりません。ドイツに先んじて、むろんアメリカに先んじて、われわれの産業大革命を強行するのであります。
この産業大革命は二つの方向に作用を及ぼすと思う。一つは破壊的であります。一つは建設的であります。破壊的とは何かと言うと、われわれはもう既に三十年後の世界最後の決勝戦に向っているのでありますが、今持っているピーピーの飛行機では問題にならない。自由に成層圏にも行動し得るすばらしい航空機が速やかに造られなけれはなりません。また一挙に敵に殲滅的打撃を与える決戦兵器ができなければなりません。この産業革命によって、ドイツの今度の新兵器なんか比較にならない驚くべき決戦兵器が生産されるべきで、それによって初めて三十年後の決勝戦に必勝の態勢を整え得るのであります。ドイツが本当に戦争の準備をして数年にしかなりません。皆さんに二十年の時間を与えます。十分でしょう、いや余り過ぎて困るではありませんか。
もう一つは建設方面であります。破壊も単純な破壊ではありません。最後の大決勝戦で世界の人口は半分になるかも知れないが、世界は政治的に一つになる。これは大きく見ると建設的であります。同時に産業革命の美しい建設の方面は、原料の束縛から離れて必要資材をどんどん造ることであります。われわれにとって最も大事な水や空気は喧嘩の種になりません。ふんだんにありますから。水喧嘩は時々ありますが、空気喧嘩をしてなぐり合ったということは、まず無いのです。必要なものは何でも、驚くべき産業革命でどしどし造ります。持たざる国と持てる国の区別がなくなり、必要なものは何でもできることになるのです。
しかしこの大事業を貫くものは建国の精神、日本国体の精神による信仰の統一であります。政治的に世界が一つになり、思想信仰が統一され、この和やかな正しい精神生活をするための必要な物資を、喧嘩してまで争わなければならないことがなくなります。そこで真の世界の統一、即ち八紘一宇が初めて実現するであろうと考える次第であります。もう病気はなくなります。今の医術はまだ極めて能力が低いのですが、本当の科学の進歩は病気をなくして不老不死の夢を実現するでしょう。
それで東亜連盟協会の「昭和維新論」には、昭和維新の目標として、約三十年内外に決勝戦が起きる予想の下に、二十年を目標にして東亜連盟の生産能力を西洋文明を代表するものに匹敵するものにしなければならないと言って、これを経済建設の目標にしているのであります。その見地から、ある権威者が米州の二十年後の生産能力の検討をして見たところによりますと、それは驚くべき数量に達するのであります。詳しい数は記憶しておりませんが、大体の見当は鋼や油は年額数億トン、石炭に至っては数十億トンを必要とすることとなり、とても今のような地下資源を使ってやるところの文明の方式では、二十年後には完全に行き詰まります。この見地からも産業革命は間もなく不可避であり、「人類の前史将に終らんとす」るという観察は極めて合理的であると思われるのであります。
第五章 仏教の予言
今度は少し方面を変えまして宗教上から見た見解を一つお話したいと思います。非科学的な予言への、われわれのあこがれが宗教の大きな問題であります。しかし人間は科学的判断、つまり理性のみを以てしては満足安心のできないものがあって、そこに予言や見通しに対する強いあこがれがあるのであります。今の日本国民は、この時局をどういうふうにして解決するか、見通しが欲しいのです。予言が欲しいのです。ヒットラーが天下を取りました。それを可能にしたのはヒットラーの見通しであります。第一次欧州戦争の結果、全く行き詰まってしまったドイツでは、何ぴともあの苦境を脱する着想が考えられなかったときに、彼はベルサイユ条約を打倒して必ず民族の復興を果し得る信念を懐いたのです。大切なのはヒットラーの見通しであります。最初は狂人扱いをされましたが、その見通しが数年の間に、どうも本当でありそうだと国民が考えたときに、ヒットラーに対する信頼が生まれ、今日の状態に持って来たのであります。私は宗教
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