に対し、大王はその半数をもってこれに対応することとなった。大王は熟慮の後ベーメン侵入に決し、冬営地より諸軍をプラーグ附近に向い集中前進せしめた。この前進は当時の用兵上より云えば余りに大胆なものであり種々論評せらるるところであるが、大王十年間の研究、訓練に基づく自信力の結果でよく敵の不意に乗じ得たのである。
五月六日プラーグ東方地区で墺軍を破り、これをプラーグ城内に圧迫した。プラーグは当時既に相当の要塞になっていたので簡単に攻略する事が出来ず、五月二十九日より始めた砲撃も弾薬不充分で目的を達しかねた。ところが墺将ダウンが近接し来たり、巧みに大王の攻囲を妨げるので大王は止むなく手兵を率いてこれに迫り、六月十八日コリン附近でダウンの陣地を攻撃した。しかしながら大王軍は遂に大敗し、止むなくプラーグの攻囲を解き、一部をもってシュレージエン方向に主力はザクセンに退却した。
大王のコリンの失敗はほとんど致命的と云うべき結果であったのに、更に仏・巴軍が西方および西南方より迫り来たったので形勢愈々急である。幸い墺軍の行動活発ならざるに乗じ大王は西方より迫り来たる敵に一撃を与えんとした。敵は巧みにこれを避け大王をして奔命に疲れしむるとともに墺軍主力はシュレージエンの占領を企図したので、大王も弱り抜いて十月下旬遂にシュレージエンに転進するに決した。その時西方の敵再び前進し来たるの報告に接しただちにこれに向い、十一月五日二万二千の兵力をもって六万の敵をロスバハに迎撃、これに甚大の損害を与えた。
この一戦はほとんど絶望の涯てに在った普国を再生の思いあらしめた。しかしシュレージエン方面の状況が甚だ切迫して来たのでただちにこれに転進、途中ブレスラウの陥落を耳にしつつ前進、十二月五日有名なロイテンの会戦となった。
この会戦は三万五千をもって墺軍の六万五千に徹底的打撃を与えた、大王の会戦中の最高作品であり、大王のほとんど全会戦を批難したナポレオンさえ百世の模範なりとして極力賞讃したのである。墺軍はシュレージエンに進入した九万中僅かにその四分の一を掌握し得、大王は約四万の捕虜を得てシュワイドニッツ要塞以外の全シュレージエンを回復、平和への希望を得て冬営についた。
ハ、一七五八年
マリア・テレジヤの戦意旺盛にして平和の望みは絶え、露軍は昨年東普に侵入退却したが、この年一月二十二日遂にケーニヒグレッツを占領し、夏にはオーデル河畔に進出を予期せねばならぬ。幸いロスバハ、ロイテンの戦果に依り英の態度積極的となり、仏に対する顧慮は甚だしく減少した。
しかし大王の戦力も大いに消耗、もはや大規模な攻勢作戦を許さない。またいたずらに守勢に立つは大王の性格これを許さぬ。ここに於て大王はなるべく遠く墺軍を支え、為し得ればこれに一撃を与え、露軍の近迫に際し動作の余地を有するを目的とし、四月中旬シュワイドニッツ攻略後主力をもってメーレンに侵入、オルミュッツ要塞を攻略するに決心した。あたかも一九一六年ファルケンハインのいわゆる「制限目的をもってする攻勢」であるベルダン攻撃に似ている。
五月二十二日から攻囲を開始したが、敵将ダウンの消耗戦略巧妙を極めて大王を苦しめ、六月三十日四千輛よりなる大王の大縦列を襲撃潰滅せしめた。大王は躊躇する事なく攻城を解き、八月初め主力をもってランデスフートに退却した。
露軍は八月中旬オーデル河畔に現われスウェーデン軍また南下し来たったので、大王は主力をもって墺軍に対せしめ、自ら一部をもって露軍に向い、八月二十五日ズォルンドルフ附近に於て露軍と変化多き激戦を交え、辛うじてこれを撃退した。大王の損害も大きかったが露軍は墺軍の無為を怒り、遠く退却して大王の負担を減じた。
墺軍主力はラウジッツ方面よりザクセンに作戦し、西南方より前進して来た帝国軍(神聖ローマ帝国に属する南ドイツ諸小邦の軍隊)と協力してザクセンを狙い、虚に乗じて一部はシュレージエンを攪乱した。大王は寡兵をもって常に積極的にこれに当ったが、ダウンの作戦また頗る巧妙で虚々実々いわゆる機動作戦の妙を発揮した。十月十四日大王はホホキルヒで敵に撃破せられたけれども大体に於て能《よ》く敵を圧し、遂にほとんど完全に敵を我が占領地区より駆逐して冬営に移る事が出来た。この戦は両将の作戦巧妙を極めたが、結局会戦に自信のある大王がよく寡兵をもって大勢を制し得たのである。
ニ、一七五九年
辛うじてその占領地を保持し得た大王も、昨年暮以来墺軍の防禦法は大いに進歩し、特に有利なる場合のほか攻撃至難となった旨を述べている。大王の戦力は更に低下して最早攻勢作戦の力無く、止むなく兵力を下シュレージエンに集結、敵の進出を待つ事となった。
六月末露軍がオーデル河畔に出て来るとダウンは初めて行動を起し、ラウジッツに出
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