に対する考えはかくて、
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1 日蓮聖人によって示された世界統一のための大戦争。
2 戦争性質の二傾向が交互作用をなすこと。
3 戦闘隊形は点から線に、更に面に進んだ。次に体となること。
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の三つが重要な因子となって進み、ベルリン留学中には全く確信を得たのであった。大正何年か忘れたが、緒方大将一行が兵器視察のため欧州旅行の途中ベルリンに来られたとき、大使館武官の招宴があり、私ども駐在員も末席に連なったのであるが、補佐官坂西少将(当時大尉)が五分間演説を提案し最初に私を指名したので私は立って、「何のため大砲などをかれこれ見て歩かれるのか。余り遠からず戦争は空軍により決せられ世界は統一するのだから、国家の全力を挙げて最優秀の飛行機を製作し得るよう今日から準備することが第一」というようなことを述べたのであるが、これは緒方大将を少々驚かしたらしく数年後、陸軍大臣官邸で同大将にお目にかかったとき、特に御挨拶があった。大正十四年秋、シベリヤ経由でドイツから帰国の途中、哈爾賓《ハルビン》で国柱会の同志に無理に公開演説に引出された。席上で「大震災により破壊した東京に十億の大金をかけることは愚の至りである。世界統一のための最終戦争が近いのだから、それまでの数十年はバラックの生活をし戦争終結後、世界の人々の献金により世界の首都を再建すべきだ」といったようなことを言って、あきれられたことも覚えている。
 ドイツから帰国後、陸軍大学教官となったが、大正十五年初夏、故筒井中将から、来年の二年学生に欧州古戦史を受け持てとの話があり、一時は躊躇したが再三の筒井中将の激励があり、もともと私の最も興味をもっていた問題であったため、遂に勇を鼓してお受けすることになった。
 かくて同年夏、会津の川上温泉に立て籠もり日本文の参考資料に熱心に目を通した。もちろん泥縄式の甚だしいものであったが、講義の中心をなす最終戦争を結論とする戦争史観は脳裡に大体まとまっていたので、とりあえず何とか片付け、大正十五年暮から十五回にわたる講義を試みたのであった。「近世戦争進化景況一覧表」(一二一頁参照)はそのときに作られたのである。
 昭和二年の同二年学生に対する講義は三十五回であったが、今度は少し余裕があったため、ドイツから持ち帰った資料を勉強し、更にドイツにいた原田軍医少将(当時少佐)、オーストリア駐在武官の山下中将をもわずらわして不足の資料を収集した。昭和元年から二年への冬休みは、安房《あわ》の日蓮聖人の聖蹟で整頓した頭を以て、とにかく概略の講義案を作成した。もちろん、根本理論は前年度のものと変化はないのである。当時、陸軍大学幹事坂部少将から熱心な印刷の要望があったが、充分に検討したものでもないので、これに応ずる勇気も無く、現在も私の手元に保存してある次第である。
 昭和三年度のためには、前年の講義録を再修正する前に、私の年来最大の関心事であるナポレオンの対英戦争の大陸封鎖の項に当面し、全力を挙げて資料を整理し、昭和二年から三年への年末年始は、これを携えて伊豆の日蓮聖人の聖蹟に至り、構想を整頓して正月中頃から起草を始めようとしたとき、流感にかかり中止。その後、再び着手しようとすると今度は猛烈な中耳炎に冒されて約半歳の間、陸軍軍医学校に入院し、遂に目的を達せずして終ったのであった。その後もこの研究、特に執筆を始めると不思議にも必ず病気にかかるので「アメリカの神様が必死に邪魔をするんだろう」などと冗談を言うような有様であった。
 昭和二年の晩秋、伊勢神宮に参拝のとき、国威西方に燦然として輝く霊威をうけて帰来。私の最も尊敬する佐伯中佐にお話したところ余り良い顔をされなかったので、こんなことは他言すべきでないと、誰にも語ったことも無く、そのままに秘して置いたのであるが、当時の厳粛な気持は今日もなお私の脳裏に鞏固《きょうこ》に焼き付いている。
 昭和三年十月、関東軍参謀に転補。当時の関東軍参謀は今日考えられるように人々の喜ぶ地位ではなかった。旅順で関東庁と関東軍幹部の集会をやる場合、関東庁側は若い課長連が出るのに軍では高級参謀、高級副官が止まりで、私ども作戦主任参謀などは列席の光栄に浴し得なかった。満鉄の理事などにも同席は不可能なことで、奉天の兵営問題で当時の満鉄の地方課長から散々に油をしぼられた経験は、今日もなお記憶に残っている。
 関東軍に転任の際も、今後とも欧州古戦史の研究を必ず続ける意気込みで赴任した。特に万難を排しナポレオンの対英戦争を書き上げる決心であった。しかし中耳炎病後の影響は相当にひどく、何をやっても疲れ勝ちで遂に初志を貫きかねた。漢口駐屯時代に徐州で木炭中毒にかかり、それ以来、脈搏に結滞を見るようになり、一
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