の甲級巡洋艦に比べて、その戦闘力に大きな差異があるのは、主として日本の海軍軍人の剛健な生活のためである。先日、私は秋田県の石川理紀之助翁の遺跡を訪ねて、無限の感にうたれた。翁は十年の長い年月、草木谷という山中の四畳半ぐらいの草屋に単身起居し、その後、後嗣の死に遇い、やむなく家に帰った後も、極めて狭い庵室で一生を送った。この簡素極まる生活の中に数十万首の歌を詠み、香を薫じ、茶をたてつつ、誠に高い精神生活を営み、且つ農事その他に驚くべく進歩した科学的研究、改善を行なったのである。この東洋的日本的精神を生かし、生活を最大級に簡素化し、すべてを最終戦争の準備に捧げることにより、西洋人の全く思い及ばぬ力を発揮し得るのである。日本主義者は空論するよりも率先してこれを実行せねばならぬ。この簡素生活は目下国民の頭を悩ましつつある困難な防空にも、大きな光明を与えるものと信ずる。
 困難ではあるが、われらは必ず二十年以内に米州を凌駕する戦争力を養い得るだろう。ここで注意すべきことは、持久戦争時代の勝敗を決するものは主として量の問題であるが、決戦戦争時代には主として質が問題となることである。しかし、われらが断然新しい決戦兵器を先んじて創作し得たならば、今日までの立遅れを一挙に回復することも敢えて難事ではない。時局が大急転するときは、後進国が先進者を追い越す機会を捉えることが比較的に容易である。科学教育の徹底、技術水準の向上、生産力の大拡充が、われらの奮闘の目標であるが、特に発明の奨励には国家が最大の関心を払い、卓抜果敢な方策を強行せねばならぬ。
 発明奨励のために国民が第一に心掛けねばならないのは、発明を尊敬することである。日本に於ける天才の一人である大橋為次郎翁は、皇紀二千六百年記念として、明治神宮の近くに発明神社を建て、東西古今を通じて、卓抜な発明によって人類の生活に大きな幸福を与えてくれた人々を祭りたいと、熱心に運動していた。私は極めて有意義な計画と信ずるが、残念ながら創立できなかった。願わくば全国民が胸の中に発明神社を建てて頂きたい。この重大時期に於て天才はややもすれば社会的重圧の下に葬られつつある。
 発明奨励の方法は官僚的では絶対にいけない。よろしく成金を動員すべきである。独断で思い切った大金を投げ出し得るものでなければ、発明の奨励はできない。発明がある程度まで成功すれば、その発明家に重賞を与えるとともに、その発明を保護したものに対しては勲章を賜わるようお願いする。現在では勲章は主として官吏に年功によって授けられる。自由主義時代ならば、国家の統制下にある官吏が特別の恩賞に浴するのは当然であろうが、統制時代には、真に国家に積極的な功績のあったものに、職域等にこだわらず、公正に恩賞を賜わることが肝要である。発明の価値によっては、その保護者に授爵も奏請すべきである。更に一代の内に儲けた財産に対しては極めて高い相続税を課する等の方法を講じたならば、成金は自分の儲けた全部を発明奨励に出すことになるだろう。自分の力によって儲けた富を最終戦争準備の発明奨励に捧げることは、昭和時代の成金の名誉であり、誇りでなければならぬ。
 成功の確実な見込がついた発明は、これを国家の研究機関で総合的学術の力によって速やかに工業化する。大研究機関の新設は固より必要であるが、全日本の研究機関を、形式的でなく有機的に統一し、その全能力を自主積極的に発揮させるべきである。
 最終戦争のためには、どれだけの地域をわが協同範囲としなければならないかは一大問題である。作戦上及び資源関係よりすれば、なるべく広い範囲が希望されるのであるが、同時に戦争と建設とはなかなか両立し難く、大建設のためにはなるべく長い平和が希望される。徒らに範囲拡大のために力を消耗することは、慎重に考えねばならぬ。このことについても持久戦争時代と異なり、決戦戦争に徹底する最終戦争に於ては、必ずしも広い地域を作戦上絶対的に必要とはしないのである。優秀な武力が一挙に決戦を行ない得るからである。
 以上の如く、われらが最終戦争に勝つための客観的条件は固より楽観すべきではないが、われらの全能力を総合運用すれば、断じて可能である。そしてこの超人的事業を可能にするものは、国民の信仰である。八紘一宇の大理想達成に対する国民不動の信仰が、いかなる困難をも必ず克服する。苦境のどん底に落ちこんでも泰然、敢然と邁進する原動力は、この信仰により常に光明と安心とを与えられるからである。日本国体の霊力が、あらゆる不足を補って、最終戦争に必勝せしめる。
 第十四問 最終戦争の必然性を宗教的に説明されているが、科学的に説明されない限り現代人には了解できない。
 答 この種の質問を度々受けるのは、私の実は甚だ意外とするところである。私は日蓮聖人
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