有利であるかが、戦争の性質が持久・決戦いずれになるかを決定する有力な原因である。
刀槍は裸体の個人間の闘争には決戦的武器であるが、鎧の進歩によってその威力は制限され、殊に築城に拠る敵を攻撃することは甚だしく困難となる。
小銃は攻撃よりも防禦に適する点が多い。殊に機関銃の防禦威力は、すこぶる大きい。これに対し、火砲は小銃に比し攻撃を有利にするが、その威力も築城と防禦方法の進歩により掣肘《せいちゅう》される。即ち近時の機関銃の出現と築城の進歩とは防禦威力を急速に高めたが、大口径火砲の大量使用は一時、敵線の突破を可能ならしめた。しかるに陣地が巧みに分散するに従って、火砲の支援による敵線の突破は再び至難となった。
戦車は攻撃的兵器である。第一次欧州大戦に於ける戦車の出現は、戦術界に大衝動を与えたが、その質と量とは未だ持久戦争から決戦戦争への変化を起させるまでには至らなかった。爾来二十数年、第二次欧州大戦に於ける戦車の数と質の大進歩は、空軍の威力と相俟って、ドイツ軍が弱小国及びフランスに果敢な決戦戦争を強制し得た原因の一つである。しかし真剣な努力を以てすれば、戦車の整備に対し対戦車砲の整備は却って容易であり、戦車による敵陣地の突破は、十分に準備した敵に対しては今日といえども必ずしも容易とは言えない。
しかるに飛行機となると、戦車が地上兵器としては極めて決戦的であるのに対しても、全く比較を絶する決戦的兵器である。地上の戦闘では土地が築城に利用され、場所によってはそのまま強い障害ともなり、防禦に偉大な力となる。水上では土地の如き利用物がなく、防禦戦闘は至難であり、防ぐ唯一の手段は攻めることである。更に空中戦に於ては、防禦は全く成立しない。
海上よりの攻撃に対する陸上の防禦は比較的容易である。大艦隊をもってしても、時代遅れの海岸要塞を攻略することの不可能であった歴史が多い。しかも海上から陸上を攻撃し得る範囲は極めて狭い。しかるに空中からの陸上や海上に対する攻撃の威力は極めて大きいのに対し、防空は至難である。対空射撃その他の防空戦闘の方法は進歩しても、成層圏にも行動し速度のますます大となる飛行機に対しては、小さな目標はとにかく、大都市の如き大目標防衛のための地上よりする防禦戦闘は、制空権を失えば、ほとんど不可能に近い。空軍のこの威力に対し、あらゆるものを地下に埋没しようとし
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