ノ線の北端をベルギー国境に託して自ら安心し、迂回し得る陣地であった事である。いわゆるマジノ延長線は紙上計画に止まり大体有事の日、工事に取りかかる考えであったが、開戦後は労働力の不足等の関係で大して工事を施されていなかった。またマジノ線に連接してベルギーがリエージュを主体としてマジノ線に準じた築城を完成する約束であったが、事実は大して工事が行なわれていなかった。
ドイツ軍は実にこの虚をついたわけである。運動戦となるや独軍の極めて優れた空軍と機械化兵団が連合軍の心胆を奪って大胆無比の作戦をなし遂げ得た。
あの極めて劣勢なフィンランドが長時日良く優秀装備のソ軍の猛攻を支えた事は今日でもいかに防禦力の大であるかを示している。今度の作戦でもフランデル方面に於て敵の正面に衝突した独軍の攻撃はなかなか簡単には成功しなかったらしいのである。空軍の大進歩、戦車の発達も充分準備し決心して戦う敵線の突破は至難である事を示している。
第一次欧州大戦では仏、白の戦闘意志は英国のそれに劣らぬものであったが、今回は余程事情を異にしていたらしい。フランスの頽廃的気分、支配階級の「滅公奉私」の卑しむべき行為はアンドレ・モーロアの『フランス敗れたり』を一読する者のただちに痛感するところである。
英国の利己的行為は仏、白との精神的結合を破壊していた。数年前ドイツがライン進駐を決行した時、仏国が断然ベルサイユ条約に基づいてドイツに一撃を加うべく主張したのに対し英国は反対し、その後も作戦計画につき事毎に意見の一致を見なかったと伝えられる。真に二国が衷心一致してドイツの進攻に抗する熱意があったならば独、自国境の築城は必ず完成されているべきであったし、今後の作戦についても更に緊密な協同が行なわれたであろう。
戦略的に見れば戦力の著しく劣った仏国は国境で守勢をとるべきであり、軍当局はこれを欲したであろう。しかし政略はこれを許さない。止むなく有力な主力軍をベルギーに進め、ドイツの電撃作戦に依って包囲せらるるや、利己主義の英国はたちまち地金を現わして本国へ退却の色を見せる。若し英国が真に戦うならば本国は全く海軍に一任し、あらゆる手段を尽してその陸軍を大陸に止むべきであった。英国の態度はベルギーの降伏となり、フランスの戦意喪失となったのは当然である。
かく考えて来る時は無準備でしかも統一と感激なき自由主義国
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