よ、夜は寝なけあなりません、貴方のやうに夜夜中《よるよなか》ベルを鳴らして、非常識にも程がある、と、かうなんです。」
「結局何うしたんだ。」
「あんな病人を、婦人科の医者にかけたりして、長く放抛《うつちや》らしておいて、今頃騒いだつて、私は責任はもてません、と言ふんです。私は余程ぶん殴つてしまはうかと思つたんですけれど、これから又ちよいちよい頼まなけあならないと思つたもんだから……。」
「あのお医者正直だからね。」私は苦笑してゐた。

     四
 翌朝診察を終つた浦上ドクトルと、私は玄関寄りの部屋で話してゐた。誰か帝大の医者に、もう一度診察してもらつたうへで、家で手当をするか、病室へかつぎこむかしようと思つて、その医者の撰定について相談をしてゐた。
 玄関の戸があいた。お利加さんが出た。
「わたし毛利です。K―先生の代理として伺つたんですが。」
 毛利といふ声が、何んとなし私に好い感じを与へた。
 毛利氏が入つて来た。毛利君と私はつひ最近入院中の渡瀬ドクトルの病室でも、久しぶりで顔を合せたが、渡瀬ドクトルが自宅療養のこの頃、又その二階の病室でも逢つた。K―氏の古い弟子格のフアンの一
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