和解
徳田秋聲
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)羞《はづ》かしい
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)薄|闇黒《くらがり》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)最近※[#「やまいだれ+票」、第3水準1−88−55]疽を癒して
−−
一
奥の六畳に、私はM―子と火鉢の間に対坐してゐた。晩飯には少し間があるが、晩飯を済したのでは、夜の部の映画を見るのに時間が遅すぎる――ちやうどさう云つた時刻であつた。陽気が春めいて来てから、私は何となく出癖がついてゐた。日に一度くらゐ洋服を著て靴をはいて街へ出てみないと、何か憂鬱であつた。街へ出て見ても別に変つたことはなかつた。どこの町も人と円タクとネオンサインと、それから食糧品、雑貨、出版物、低俗な音楽の氾濫であつた。その日も私は為たい仕事が目の前に山ほど積つてゐるやうで、その癖何一つ為ることがないやうな気がしてゐた。その時T―が、いつもの、私を信じ切つてゐるやうな少し羞《はづ》かしいやうな様
次へ
全28ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング