こ》はこっちを向いて、長い煙管《きせる》を取り上げた。
お庄は挨拶をすますと、窓のところへ寄って来て、障子を開けて外を覗《のぞ》いた。そこはすぐ女学校の教室になっていた。曇ったガラス窓からは、でこでこした束髪頭が幾個《いくつ》も見えた。お庄は珍しそうに覗き込んでいた。
「どうしたい。」従兄はお庄の風に目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》っている。
「今下で、お婆さんにさんざん油を絞られましたよ。」
「お前のいるところはどこだえ。」
お庄はそこへ坐って、煙管を取りあげた。
「何だ、お庄ちゃんか。」と言って、繁三も次の室《ま》から顔を出した。
二十八
日の暮れ方まで、お庄はここに遊んでいた。二階の連中と出しっこをして、菓子も水ものを買って、それを食べながら、花を引いたり、燥《はしゃ》いだ調子で話をしたりするうちに、夜|寄席《よせ》へ行く約束などが出来た。
「そんなことをしていてもいいかえ。築地の小崎もお前のことを心配していたで、今夜にも行って見た方がよくはないかえ。お前の風を見て、小崎が何と言うだか。」
婆さんは、飯も食わずにそわそわしているお庄に小
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