よろこ》ばなかった。
お庄が半襟などを取り出して、「阿母《おっか》さんがいろいろお世話になりまして……。」と、ひねた挨拶《あいさつ》ぶりをすると、婆さんは紙に包んだその品を見もしないで、苦い顔をしていた。
「お前は、そしてその家で何をしているだい。やっぱり出てお客のお酌《しゃく》でもするだかえ。」
「え、時々……。」お庄はニヤニヤしながら、「やっぱりね、それをしないと怒る人があるものですから。」
「そんなことをしてはいけないぞえ。ろくなお客も上るまいに。金でもちっと溜ったと言うだか。」お庄は笑っていた。
「お安さあのところへ時々送るという話だったじゃないかえ。」
「それはそうなんですけれど、ああしておれば何だ彼だと言ってお小遣いもいりますから……。」
「それじゃお前、初めの話と違うぞえ、そのくらいなら日本橋にいた方がまだしも優《まし》だ。続いて今までおればよかったに。」
お庄もそんなような気がしていないこともなかった。お酉《とり》さま前後から春へかけて、お庄は随分働かされた。一日立詰めで、夜も一時二時を過ぎなければ、火を落さないようなこともあった。脚も手も憊《くたび》れきった体を、
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