》いあげられたという細君の話では、この夫婦の若いころの豊かな生活の有様が想像され、子供が育つ時分から、だんだん落ちて来て、こうした貧乏世帯に慣らされるまでの細君の気苦労も窺《うかが》えるように思えた。
「私も、まさかあんな家とは思いませんでしたよ。」
お庄もつい引き込まれて、自分の家の事情など話しながら言い出した。お庄はここの人たちの心持も知っておきたいと思った。
「あのお爺さんのいるうちは、とても丸く行かないだろうって、良人《うち》でも心配しているんですよ。」と細君はこの婚礼についての主の苦心を語った。これまでにも、芳太郎がちょくちょくここへ囲《かく》まわれていたことも言い出された。
「……あの人が、一番可哀そうですの。」と細君はこうも言った。
八十四
芳太郎が、中村の知っているある通運会社へ出ることになってから、お庄も時々外へ出られるようになった。
これまで芳太郎は、中村から小遣いを強求《せび》っては、浪花節《なにわぶし》や講釈の寄席《よせ》へ入ったり、小料理屋で飲食いをしたりして、ぶらぶら遊んでいた。昼は邸の裏の池に鉄網《かなあみ》を張って飼ってある家鴨《あひる》や家鶏《にわとり》を弄《いじ》ったり、貸し本を読んだりして、ごろごろしていたが、それにも倦《う》んで来ると、お庄をいびったり、揶揄《からか》ったりした。お庄がちょっとでも家を出ようとすると、芳太郎が目の色がたちまち変った。家へ訪ねて来たお庄の前の男のことも始終言い出された。
木立ちの深いこの部屋は、昼もめったに日光が通わなかった。三時ごろからしばらくの間|斜《はす》に差し込む西日の影は、かなり暑かった。お庄は芳太郎の昼寝をしている側で、自分もぐったり眠ってしまうようなことが間々《まま》あった。森に蜩《ひぐらし》の声が、聞える時分に、ふと汗ばんだ腋《わき》のあたりに、涼しい風が当って目がさめると、芳太郎もぼんやりした顔をして、起き直っていた。両手を上へ伸ばして、突伏《つっぷ》しになっていたお庄は、懈《だる》い体を崩して、べッたりと坐りながら、大きい手で顔を撫《な》でたり、腕を擦《さす》ったりしていた。通りに豆腐屋の声などがして、邸のなかはひっそりとしていた。
体に悪戯《いたずら》をされたことに心づくと、お庄は妙に腹が立った。子供のような芳太郎はお庄のぶよぶよした白い股《もも》のあ
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