の心持を愍《あわれ》んでいた。
「それにしても随分ずうずうしいやね。」と、友達は芳村から聞いた昨夜《ゆうべ》の事情を、お庄や母親の前で話した。磯野とお増とが、芳村の顔を見ると、いきなり二人がそうなった動機を話して、芳村にも同情してくれろと言ったことや、お増が部屋にあったいろいろの世帯道具や夜の物、行李《こうり》のなかの芳村の持物までを強請《ねだ》って、おおかた|浚《さら》って行ったことなどが、憎さげに話し出された。
「それで磯野と一緒に出て行ったんですか。」と、お庄はあの部屋を出て行った二人の様子を心に描いた。
「それでも出て行くとなれば、あまりいい心持はしなかったろうがね。」と母親も傍から口を利いた。
「今度こそは、意地にも添い通して見せるなんて言って出ては行きましたがね、長持ちがするかどうかは疑問ですよ。」と言って、淋しく笑っている芳村の顔では、女がまた自分の懐に復《かえ》って来る時が、きっとあるものと信じているらしかった。
「どうせ一人を守っちゃいられない女なんだからね。」友達が言った。
「そうなんでしょうね。あの人は私の聞いているだけでも、随分いろいろの人を知っていましたからね。」と、お庄も芳村の心をもどかしく思った。
 二階に寝ていた叔父が起きて来てから、芳村は昨夜《ゆうべ》托《あず》けておいた鞄を提げ出して、やがて友達と一緒に帰って行った。叔父は淋しい朝飯の膳に向いながら、母子《おやこ》がしている磯野らの噂に耳を傾《かし》げていた。
「お庄も、築地にいる時分にどこかへ片着けておくだったい。」と、母親はお庄の厭がる弟の給仕をしながら、以前のことを思い出していた。運の向きかけて来てから、まだまだ前途があるように言っていた弟が、こんなにばたばたと息ついて来ようとは思わなかった。
 お庄はすることが手に着かなかった。縫直しに取りかかろうとしていた春着の襦袢《じゅばん》なども、染物屋から色揚げが届いたばかりで、この四、五日のどさくさ紛れに、まだ押入れへ突っ込んだままであった。ひとしきり自分の体に着くものと決まっていた数ある衣類も、叔父に言われて、世帯の足しに大方|余所《よそ》へ持ち出してしまった。磯野が時に工面《くめん》に行き詰ったおりおり、母親に秘密で、二人でそっと持ち出して行った品も少くなかった。今度磯野に逢ったら、せめてそれだけでも取り返す工夫をしなければな
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