「どうしたというんだろう。」と、母親は会社の紛擾《ごたごた》から引き続いて、心配事ばかり多い弟の体を気遣った。
「なあに感冒《かぜ》だ。ヘブリンの一服も飲めば癒《なお》るで。」叔父はそう言いながら、繁三を相手に酒を飲んで芝居の話などしていた。
 お照がしばらくここの家に隠れていた。あっちの家を引き払うころから、お照のことで、叔父と丸山とは互いに気持を悪くしていたが、ここへ引っ越してからも、あまり往来《ゆきき》をしなかった。丸山が女を捜しに来ると、女は二階へあがって客の部屋に隠れていた。丸山は終《しま》いに女をかまいつけなくなった。
 病院以来懇意になった糺の友達の医師《いしゃ》が、その晩もぶらりと遊びに来て、叔父と碁を打ちはじめた。叔父は一勝負やっと済ますと、碁盤を押しやって顔を顰《しか》めた。石持っている間も時々|顫《ふる》えていた。
「おかしいな。」と、医師《いしゃ》は繁三に糺の聴診器を取り寄せさして、叔父の体を見た。
 医師は骨立った叔父の胸をそっちこっち当って見ているうちに、急に首を捻《ひね》って肺のところをとんとんと強く敲《たた》きはじめた。
「どうも少しおかしい。」医師は側を離れると、溜息を吐いて、急いで縁側へ手を洗いに行った。
「肺病にでもなっているのじゃないらか。」母親は傍から心配そうに言った。お照もお庄も、黙って叔父の顔を眺めていた。
「私の肺は、人に優《すぐ》れて丈夫だと言われたもんだが……。」
と、叔父は肩を入れながら呟《つぶや》いた。
 医師も繁三も、じきに帰った。
「とにかく院長に一度|診《み》ておもらいなさい。うっちゃっておいちゃいけない。」医師《いしゃ》は繰り返しそう言って出て行った。
 酔いのさめた叔父は、また酒でも飲まずにはいられなかった。
「そんなに酒を飲んでもいいらか。あの医師《いしゃ》がああ言うくらいだで、どこかよい医師に診てもらうまで、むやみなことをしない方がいい。」
「あの竹の子医師に何が解るもんで……。」
 叔父はお照に酌《しゃく》をしいしい自分にも飲んだ。
 湯島の伯母に引っ張り出されて、叔父はその翌日《あくるひ》駿河台の病院へ診てもらいに行った。
「結核も結核、ひどい結核だと言うでないかい。」と、伯母はお庄と母親が朝飯を食べているところへ飛び込んで来て顔を顰めた。
 二人はびっくりして、箸を休めた。
「昨夜《ゆうべ
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