りしたこともあったにな。十年と一緒にいなかった。」
 お庄は袋のなかから、こまこました叔母の細工物を取り出して見ていた。縮緬《ちりめん》の小片《こぎれ》で叔母が好奇《ものずき》に拵えた、蕃椒《とうがらし》ほどの大きさの比翼の枕などがあった。それを見ても叔母の手頭《てさき》の器用なことが解った。体の頑固な割りに、こうした女らしい優しい心をもっていたことが、荒く育ったお庄にもうらやましかった。叔母の側にくっついていて、もう少し何かの手業《てわざ》を教わっておくのだったとも考えた。
「叔母さんのすることは、少し厭味よ。」お庄は捻《こ》ねくっていた枕をまた袋の底へ押し込んだ。よく四畳半で端唄《はうた》を謳《うた》っていた叔母の艶《つや》っぽいような声が想い出された。
「阿母《おっか》さんもそんなものを持って来て。」
 お庄も目録を取り上げて畳の上に拡げた。
「阿母さんだって、木曽へ行った時分はねえ。」と、母親は木曽《きそ》の大百姓の家へ馬に乗って嫁に行ったことを想い出していた。
「あの家に辛抱しておりさえすれば、今になってまごつくようなことはなかったに。」
「どうして辛抱しなかったの。」
「どうしてって、家の遠いのも厭だったし、姑という人が、物がたくさんあり余る癖に吝《けち》くさくて、三年いても前垂一つ私の物と言って拵えてくれたことせえなかった。田地もあったが、種馬を何十匹となく飼っておいて、それから仔馬《こうま》を取って、馬市へも出せば伯楽《ばくろう》が買いにも来る――。」と、母親は重い口で、大構えなその暗い家の様子を話した。お庄は、そんなところにもいたのかと思って、口に泡をためている母親の顔を瞶《みつ》めた。
「その家じゃ機《はた》もどんどん織るし、飯田《いいだ》あたりから反物を売りに来れば、小姑たちにそれを買って着せもしたが、私《わし》には一枚だって拵えてくれやしない。万事がそれだで私も欲しくはなかったけれど、いい気持はしなかった。それで初産《ういざん》の時、駕籠《かご》で家へ帰ったきり行かずにしまったというわけせえ。」
「その人はどんな人さ。」
「どんなって、馬飼うような人だで、それはどうせ粗《あら》いものせえ。それでも気は優しい人だった。今じゃ何でもよっぽどの身上《しんしょう》を作ったろうえ。私はその時分は、身上のことなぞ考えてもいなかったで、お産のあと子供が死ん
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