に、老婦《としより》はまたお饒舌《しゃべり》を始めていた。
 やがて母親は済まぬ顔をして、茶の室《ま》の方へ出て来た。
「あの人は妙なことを言う人だえ。」母親は白い目をしてお庄に呟いた。
「何でも彼でも、自分の家で拵えてやったようなことばかり言うでね。それもいいけれど、あの紋附を、もうお此《この》さんには派手だで、帰るとき田舎へ持って行ってお花さんに着せるそうだよ。」
「いいわねそんなこと……私は叔父さんにまた拵えてもらうから。」お庄は日焼けのしたような顔を手巾《ハンケチ》で拭いた。
「どこから捜して来たか、あの碧《あお》い石の入った大きい指環《ゆびわ》まで出して来て、指環というものはまだ嵌《は》めたことがないで、少しお借り申したいなんてね。」と、母親は歯茎《はぐき》に泡を溜めながら言い立てた。
 昨日《きのう》から家中引っ掻き廻している、老婦《としより》の仕打ちが、母親にはくやしくもあった。
「どれさ。」と、お庄は邪慳《じゃけん》そうに訊いた。
「ほれ、あの……いつか丸山さんとお対《つい》に、叔父さんが拵えたのがあるじゃないかえ。」母親は急《せ》き込んで、同じようなことを幾度も繰り返した。
 四時ごろに、老婦《としより》は娘の意気な櫛《くし》などを挿し込んで、箪笥にきちんと錠を卸《おろ》して、また病院の方へ出かけて行った。

     四十六

 三週間も経った。そのころには、病人の体もただ薬の灌腸《かんちょう》や注射で保《も》たしてあるくらいであった。頭脳《あたま》がぼんやりして、言うことも辻褄《つじつま》が合わなかった。体が冷えて、爪に血の色が亡《う》せて来ると、医師《いしゃ》がやって来て注射を施した。患者はしばらくのまに渾身《みうち》が暖まって来た。
「ことによると、今夜もたないかも知れませんよ。御親類へお報《しら》せになった方がよろしいでしょう。」
 老婦《としより》やお庄が、昏睡《こんすい》状態にある患者の傍で、医師からこう言い渡されるのも、もう二、三度になった。
 息を吐《ふ》き返して来ると、患者は暗い穴の底から、縁《ふち》に立っている人を見あげるように、人々の顔を捜した。
「私だよ。」母親はその手を握って、娘の頬のところへ自分の顔を摺り寄せて行った。
 患者は心から疲れたような、長い厭な唸り声を立てた。
「おお可哀そうだな。」と、母親は鼻を塞《つま》
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