んですから出ましたような訳でと、然う云うとね、下役の方が、十二枚づつ綴じた忰の成績書をお目にかけて、何かお話をなすっていましたっけがね、それには一等一等と云うのが、何でも幾枚もあったようでしたよ。」  
「秋山大尉の方は、それ限《きり》かね。」
「秋山さん方かね。此方の揚ったのは、忰の骨揚げのすんだ翌日でしたっけがね、私も詳しいことも知らねえが、△△中の船頭を一週間買いあげて、捜したそうです。これは×××大将の方からも、入費が出たそうで……その骨揚の日には、私も寄ばれましたっけが、忰の筺《かたみ》の品を二品ほしいと仰ゃるんで、上等兵になった時の写真を二枚持ってまいりましたがね、その時の儀式と云うものが大変なもんでした。
 ××大将は戦地へ出向く連中から、電報を御覧になって引還してお出でになって、私もその時お目にかかったがね。広い書院は勲章や金モールの方で一杯だ。そこへ私にも出ろと仰ゃって下さるんだけれど、何ぼ何でも状《ざま》が状だから出る訳に行きゃしねえ。
 するとお前さん、大将が私の前までおいでなすって、お前にゃ単《たっ》た一人の子息《むすこ》じゃったそうだなと、恐入った御挨拶でござ
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