自分の象徴詩を弁護しようなんて滑稽じゃありませんか。象徴詩なんて、要するに空虚な詩工には持って来いの隠れ場で、彼等はその中で文字の軽業をやってるだけです」
僕は口がだるくなって止めにした。Kさんは時々「ふむ、ふむ」と受けながら、穏かな微笑を浮べて聞いていたが、「まあそんなに憤慨しなくてもいいよ。つまらないまやかし[#「まやかし」に傍点]物は時の審判の前には滅びてしまうのだから。早い話が、基督はいくら十字架にかけられても」と聖書を手に取上げて、「その精神は今日此中に生きているじゃないか。いくら圧迫されても無視されてもいいから、本当の詩を書かなくちゃいけない」と云ってまたそれを下に置いた。僕はこの先輩の声援にすっかりいい気持になって、その聖書をまた手に取ってしきりに引っくり返しながら、いつになく盛んに気焔を挙げた。
帰る時に、僕があまりその聖書を熱心にいじくっていたものだから、
「何なら持って行きたまえ」とKさんは云ってくれたが、僕は、
「いえ、なに」と立上りながら云った。御馳走ではないものだから、Kさんは「遠慮したもうなよ」とまでは勧めなかった。下へおりると、奥の方で賑かな女の人の笑
前へ
次へ
全7ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
生田 春月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング