マッピラと云う音が面白いと云うので、しきりに真平と云う事を申しました。
外出の時はいつも背広でございましたが、洋服よりも日本服、別して浴衣が大好きでした。傘もステッキももった事はございません。散歩の途中雨にあっても平気で帰るのですが、余り烈しいとどこででも車を見つけて乗ってかえりました。靴は兵隊靴です。流行には全く無頓着でした。『日本の労働者の足は西洋人のよりも美しい』と申しました。西洋よりも日本、この世よりも夢の世が好きであったろうと思います。休む時には必ず『プレザント、ドリーム』とお互に申します。私の夢の話が大層面白いと云うので喜ばれました。
ワイシャツやカラなどは昔から着けなかったようです。フロックコートを、仕方なく着ける時でもカラは極低い折襟でした。一種の好みは万事につけてあったのてすが、自分の服装は少しも構わない無雑作なのが好きでした。シャツと帽子とは、飛び放れて上等でした。シャツは横浜へ態々《わざわざ》参りまして、フラネルのを一ダースずつ誂えて作らせました。帽子はラシャの鍔広のばかりを買いましたが、上等物品を選びました。
うわべの一寸美しいものは大嫌い。流行にも無頓着
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