います。私は煙草の火は絶やさないように、注意をしていましたが、自分で吹きたいものですから、少しでも消えると直ぐ喜んで吹きました。如何に面白いと云うので、書斎の近くに持って参って居りましても、吹いて居るのでございます。この音が致しますと、女中までが『それ、貝がなります』と云って笑いました。

 よく出来た物などを見ますとひどくそれに感じまして、賞めるのでございます。上野の絵の展覧会にはよく二人で参りました。書家の名など少しも頓着しないです。絵が気に入りますと、金がいくら高くても、安い安いと申すのです。『あなた、あの絵どう思いますか』と申しますから[#「申しますから」は底本では「申ますしから」と誤植]『おねだん余り高いですね』と私は申します。金に頓着なく買おう買おうとするのを、少し恐れてこう返事を致すのでございます。すると『ノウ、私金の話でないです。あの絵の話です。あなた、よいと思いますか』『美しい、よい絵と思います』と申しますと『あなた、よいと思いますならば買いましょう。この価まだ安いです。もう少し出しましょう』と云うのです。よいとなると価よりも沢山、金をやりたがったのです。そして早く早
前へ 次へ
全64ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小泉 節子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング