博士は報告がすむと老女を手伝って硝子盤を奥へ運んでいった。拍手の音はしばらく鳴りもやまなかった。
鎌倉の別邸では、内藤房子は、朝ばあやが運んで来てくれた牛乳をのんでから、うとうとしているうちに赤ん坊に乳房をふくませたままいつの間にかぐっすり熟睡してしまった。
深い、それでいて何だか気味の悪い眠りから彼女がさめたときはもう暗くなっていた。赤ん坊はまだすやすや眠っていた。彼女は可愛さにたえぬもののように、無心な赤ん坊の額に接吻した。何だか葡萄酒の匂いがするような気がしたが彼女は別にそれには気もとめなかった。
「まあおめざめでしたか、あんまりよくお寝みでしたから、お午餐も差しあげませんで」
と言いながら、ばあやが夕食を運んできた。
「ほほうよく眠っていますね」と言いながら博士もそのあとからはいって来て赤ん坊の顔をのぞきこんだ。そして博士は母親と子供との額に代るがわる接吻した。
* * *
それと同じ時刻に大学の生理学教室では、熱心に試験管をいじっていた阿部医学士がひとりで頓狂な叫びをあげた。
「なんのこった、第二村木液だなんて仰山な名前をつけて、こりゃただ
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