日だったね」
博士は理学者的冷静さをもって答えた。
「それまでに実験はまにあうでしょうか? 今日はいつかの新聞記者が来ましてね。そのことを念を押していったのですよ」
「大丈夫間にあうつもりだ」
「こん度は大学側では、大勢の教授があなたに詰問的質問をするといって、いきごんでいるそうですわ。でもすっかり準備はおできになっているでしょうね?」
「百の報告よりも一の実物が証拠だ。私はその日は実物を公開するつもりでいる」
「まあ、ではもう実験が成功したのですか?」
夫人はつつみきれぬよろこびをもってたずねた。
「まだ成功はせん。しかしまだ二日の余裕がある。それまでにすっかりできあがるつもりだ」
* * *
翌日早朝鎌倉へでかけた博士は、一日実験室にとじこもっていた。隣室からは、博士の忙しそうに歩きまわる足音のあいまあいまに、水道から水のほとばしり出る音、硝子器のふれあう音などが、かすかにきこえ鋭敏な鼻にはほのかな薬品の匂いさえかぐことができた。
* * *
その翌日、いよいよ大会の当日であった。恒例をやぶって××新聞の講堂にかえられた会
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