夢
吉江孤雁
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)不圖《ふと》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)所々|懸崕《けんがい》の
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ほろ/\崩れて
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不圖《ふと》昔の夢が胸に浮んで來た。
私は或る山へ登らうとしてゐた。禿山《はげやま》で、頂《いただき》には樹木も無い。草花が所々|懸崕《けんがい》の端に咲いてゐる。私の傍には二人の小兒《こども》が居た。一人は男の兒で六歳ばかり、一人は女の兒で四歳ばかり、男の兒は先きに立つて登つて行く、女の兒は私の手に縋つて歩いてゐる、不圖懸崕の頂の草花が目に入つた。
「あれ取つて頂戴な」女の兒は私に取りついて放れない。危いのを、右手で其兒を押へながら、身を曲《かゞ》めて、左手を伸ばし、取らうとすると、砂がほろ/\崩れて崖下へ落ちて行く。下は深い谿《たに》だ。底深く吹き上げて來る風に草花はゆら/\搖れてゐる。また、手を伸ばさうとする、が、一歩踏みはづせば其まゝ深谿へ落ちて了ふ。纔《わづ》かに花を摘んだ。女の兒は悦んで其花を手にして登つて
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