答えずに、俺をひき寄せてみんなの前でチュウと唇を吸った。
女達は口々に囃《はや》したてて笑った。俺は一足とびに寝室のベットを目蒐《めが》けて転んだ。……
女は俺が厭がるのに無理やりに服をぬがせて………。黄色く貧弱な肌が、女のにくらべてひどく羞しい気がした。女は笑って、俺の汗臭い靴下を窓に捨てた。窓には、芽をふいた青い平原が白い雲を浮游させて、無限の圧迫を加えていた。
陽はまだ高かった。
俺は放浪の自由を感じて、女の胸に顔をうずめて、やわ肌の甘酸ぽい匂いを貪《むさぼ》った。
顔をあげると、女は何か言ってひどく笑いくずれた。俺はキョトンとして女の笑い崩れる歯ぐきに見とれた。女は二三度その言葉を繰返したが、俺が、キョトンとしているので、しまいにはジレて荒ぽく俺の顔をつかんで唇を押しつけた。
俺は何のことか解らなかった。女は暗い顔をして、俺をみつめた。
俺は女の眼をさけて、窓をみた。言葉の通じない悲哀が襲って来たのだ。――
と、涯《はて》しのない緑の平原と雲の色が、放浪の孤独とやるせなさにむせんで見えた。俺は吐息《といき》をついて女をみた。
女はブラインドをひいて、窓の景色を鎖《と》ざした。ドアの外でまた女達が、楽器の音に賑かに踊り出した。
女は俺を抱きしめて頬に唇を寄せた。俺は黙って女の………………。だが心が滅入って性慾が起きなかった。
俺は女を突いてウォツカをコップにつがせた。酒の酔は俺から陰気な想念を追払った。酔いの眼に女の裸体が悩ましくなった。俺は女を揺《ゆす》ぶって………………。
――女は柔かい肉体の全部を惜し気もなく俺の破レン恥な翻弄にゆだねて眼をつむった。………………に………………を………………すると女は微笑んで俺に唇を求めた。だが俺はその苦痛にゆがんだ無理な微笑に気がつくと、はッと手をひいた。酔がさめて、女の白い屍肉が、一箇の崇厳な人間の姿になった。
女は眼をひらくと、不審な眼付で俺をみつめていたが、やがてまた手を掴んで俺の獣慾を挑発しようとした。俺は人間をみずに、また忽ち淫売婦を感じた。俺は泣くに泣かれぬ気持で、後にノケ反《ぞ》って頭髪を掻きむしった。俺という醜劣きわまる野郎と、淫売婦というどこまで自己を虐げるのかケジメのたたない怪物を一緒に打ち殺したい憎悪で部屋が闇黒になった。
闇の中で女は俺をひき寄せた。俺は邪険にその手を払
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