我であり、我の存在根拠であるものは同時に汝の存在根拠であることなしには我の存在根拠であることもできぬ。しかも真に内なるものは真に外なるものであり、外なるものを離れて内なるものがあるのではない、現実の世界とは別に世界があるわけではない。世界は自己形成的世界である、世界は世界を作ってゆく、人間は創造的世界の創造的要素である。我々の役割は単に社会から書いて与えられているのでなく、他方我々自身が自由に書き得るものである。言い換えると、それは社会的に定められていると同時に我々自身の定めるものである。我々は社会から限定されると共に、逆に我々が社会を限定する。我々は社会に働きかけ社会を変化することによって自己の役割を創造してゆかねばならぬ。我々の職能は固定的なものでなく、歴史的に、言い換えると、主観的・客観的に形成されるものである。役割における人間として我々は社会にとっての手段であるとすれば、人格として我々は自己目的である。人間は自己目的であると同時に手段であるという二重の性格のものである。
さて右に述べたように徳と技術とが結び付いているとすれば、徳と知との結合はおのずから明瞭であろう。すべての技術は知識を基礎としている。行為が技術的である限り、行為における発展は知識における発展によって可能にされる。徳と知とを分離的に考えることは、行為を技術的・形成的行為として根本的に把握しないところから生ずるのである。ここに技術というのは、もとより単に自然に対する技術をのみ意味しない。むしろすでにいった如く、社会に対する技術が今日極めて重要な問題となっている。とりわけ政治はアリストテレスが考えたようにアルヒテクトニッシュな意味をもっている。即ちそれはあらゆる技術の目的となるような技術、他の技術に対して総企画的にその位置と関係を示す指導的な技術である。アリストテレスにおいて政治学と倫理学とは一つのものであった。人間は本性上「社会的動物」であるとすれば、政治学と倫理学とは離れたものであることができぬ。アリストテレスにとって政治の目的は、いかにして「善い国民」であることと「善い人間」であることとを統一するかということであった。人間は「善い国民」の意味において社会にどこまでも内在的である。従って仮に自己の属する社会が悪いとしても、その社会において与えられた役割を果し、その社会に仕えることが彼の義務であるといわれるであろう。しかしながら人間は同時に「善い人間」の意味においてその社会を超えたものである。自己の自発的な行為によって自己がその中にいる社会を善くしてゆくことが人間の義務であるといわねばならぬであろう。我々は社会から作られたものであると共に社会は我々が作るものである。人間は閉じた社会に属すると同時に開いた社会に属している。かように矛盾があるところから形成的発展ということがあるのである。善い国民であることと善い人間であることとが統一されてゆくに従って、民族は世界的意味をもってくる。それによって同時に世界は世界的になってゆく。世界が世界的になるということが歴史の目的である。世界は開いたものとして到る処中心を有する円の如く表象されるように、世界が世界的になるということは無数の独立なものが独立なものでありながら一つに結び付いてゆくということである。それによって個別的なものがなくなるのではない。却って「形の多様性」は自然の、歴史的自然の意志である。
三 行為の目的
行為には目的がなければならぬと考えられている。行為は意志に基いて起り、意志は目的をもっている。そして一般に知識の目的が真理であるように、道徳的行為の目的は善と呼ばれるのである。そこで善とは何かということが道徳の根本問題になってくる。
行為の目的は快楽であるとするのは快楽説である。それとつながって、行為の目的は幸福であるとする幸福説がある。幸福は何等かの快楽を意味している。ところで快楽は主観的なものであり、各個人によって快楽とするものは異る故に、快楽を目的とする場合、道徳は客観性のないものになるであろう。そこに何等か客観的な標準を求めようとすれば、快楽というものを量化して考えねばならなくなる。もし快楽に肉体的快楽と精神的快楽というような性質的差別を認め、我々の求むべきものは肉体的快楽でなくて精神的快楽であるというように主張するとすれば、それはすでに道徳の基準を快楽以外のものから取ってくることになる。快楽を無差別にただ量的に考えるのでなければ快楽説は純粋でない。しかるに心理現象は本来すべて性質的なものであって、量的に考えることを許さないのである。功利主義者ミルの如きも、幸福な豚になるよりも不幸なソクラテスになることを選ぶといっている。しかしもしかように考えるとすれば、それは快楽説の自殺でな
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