信頼は、元来、主体と主体との間に成立つ関係である。自己の呼び掛けに対して他が必ず応えるであろうと信頼する、その際他のまことが信ぜられており、また応える側においても自己に呼び掛ける者のまことが信ぜられている、即ち信頼は人と人との間に真理が起るということを土台としている。信頼は単に他が変らぬこと、彼の人格の同一性を信ずるというが如きことではない。カントは正直という徳を、不正直であることは自己矛盾に陥るとして説明したが、すべて道徳はかように形式論理をもって説明し得るものでない。道徳的真理は我と汝という全く独立なもの、対立するものの統一の上に成立つのであるが、道徳はすべてかくの如く弁証法的なものである。ところで他の呼び掛けに応えることは責任をとるということであり、それに応えないことは無責任ということである。責任をもつというのは他の信頼に報いることであり、無責任であるというのは他の信頼を裏切ることである。信頼と同じく責任の観念は道徳的行為の基礎である。もし信頼がただ他を信頼するのみで同時に自己を信頼することでないとすれば、それは自己のまことを失うことになり、無責任なことになる。責任もまた単に自己の他に対する責任でなく、自己の自己に対する責任でなければならぬ。他に対して責任を負うことが同時に自己に対して責任を負うことであり、自己に対して責任を負うことが同時に他に対して責任を負うことであるというところに、人間のまことがあるのである。そして人格の観念と責任の観念とは本質的に結び付いている。人格とは責任の主体である。責任の主体は自由でなければならず、自由なものであって責任の主体となり得るのである。「汝為すべし」と呼び掛けられているのを知る人間は、まさにそれによってまた自己が自由なものとして、自己の道徳的自由に向って呼び掛けられているのを知るのである。自由と責任とは不可分のものである。
ところで他が自己に呼び掛けるというのは他が表現的なものであるからである。汝として我に対するものは表現的なものでなければならぬ。汝は表現的なものとして我の行為を喚《よ》び起すのである。人間の真理と虚偽が、ほんととうそとして、特に言葉に関して理解されるのも、そのためである。我々の行為は表現的なものから喚び起されるのであり、かようなものとしてそれ自身表現的である。主体と主体とは表現的なものとして相対し、その行為的聯関は表現的聯関である。しばしば論じた如く、主体とは単に主観的なものでなく、むしろ主観的・客観的なものである。そして表現というのは、主観的なものと客観的なものとが、内と外とが一つであることを意味している。表現において、内部が外部に表現されるといわれる。この内なるものは単に主観的なもの、単に個人的なものであることができぬ。却って我々は己れを殺すことによって真に表現的になり得るのである。技術的に作られたものは表現的であるといわれるが、その場合、もし我々の意欲が単に主観的なもの、肆意《しい》的なものであるとしたならば、自然の客観的な法則がこれに向って反逆し、これと一つに結び付いて物が作られるということはないであろう。その意味で技術における人間の意欲は客観的意味をもったものでなければならぬ。ひとは技術において自己の主観的な意欲を制し、これを客観的なものにすることを学ぶのであって、技術が道徳的教育的意味をもっているのも、そのためである。我々の意欲が或る客観的なものであることによって技術は成立するのであり、人間の技術が自然の技術を継続するということも、そのためにいわれることである。それだからといって、技術は単に客観的なものであるのでなく、やはり主観的なものと客観的なものとの統一である。単に主観的なものを否定することによって我々は真に主体的になるのであり、人間のまことが現われるのである。このものは超越的意味をもっている。表現において表現されるものは単に心理的なもの、内在的なものでなく、超越的なものでなければならぬ、イデー的なものでなければならぬ。真に自己に内在的なものは超越的なものによって媒介されたものであり、超越的なものによって媒介されたものが真に自己に内在的なものであるというところに、人間の存在がある。しかしながらそのことは表現作用が単に理性(ロゴス)から起るということを意味するのではない。「デーモンの協力なしには芸術作品はない」とジイドがいった如く、我々の表現作用の根柢にはデモーニッシュなもの、大いなるパトス(感情)がなければならぬ。「世界におけるいかなる偉大なことも激情なしには成就されなかった」、と理性主義者ヘーゲルでさえいっている。デモーニッシュなものとは無限性を帯びた感性的なものである。人間の動物的衝動という言葉は、比喩的に語られているのでなければ、不正確に語ら
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