を得るということは、行為にとっても大切である。懐疑は探求の動力である。しかしながら探求は懐疑によって促されるにしても、探求そのものは何等かの真理のあることを予想している。さもないと探求するということはおよそ無意味でなければならぬ。「もし我が汝に出会ったことがなければ我は汝を求めはしないであろう」、とパスカルはいった。絶対的真理があるとの自覚がなければ、知的探求は始まらないであろう。尤《もっと》も、懐疑論は経験を尚ぶところに重要性をもっている。古代の懐疑論も、近代の懐疑論も、経験に訴えて論ずるのをつねとした。純粋に思惟によって絶対的真理に達し得るとする合理主義に経験の立場から反対した点に、懐疑論の真理性がある。しかし懐疑論は経験の意味を深く理解しなかったために懐疑論に陥ったのである。特にそれは観想の立場に止まって、経験を行為の立場から把握しなかったところに誤謬がある。
 それにしても、経験的事実として知識が相対的であることは争われないように見える。相対主義には何等かの真理が認められねばならぬ。経験的に見るということも種々の意味があるであろう。論理主義に対するものは心理主義である。心理主義にも個人心理的見方と社会心理的見方とがあり得るが、いずれも発生的に考察するのである。論理主義者は自己の批判的方法を心理主義の発生的方法から区別している。発生的な見方は自然科学的な客観的な見方である。心理的に見るということもその場合自然科学的に見るということである。しかるに同じく発生的に見てゆくにしても、歴史的に見てゆくことはそれとは違っている。真に歴史的に見ることは単に客観的に見ることではなく、却って主体的に捉えることである。歴史的考察は心理主義と同じでない。歴史的なものは単に心理的なものではないのである。しかるに論理主義者は歴史的に見てゆくことをも心理主義の如く考えて一様に非難している。カントにおいては歴史的ということと心理的ということとが同じ意味に理解されている、彼はまだ歴史の本質について深い認識に達していなかったのである。
 しかるにまさに歴史が絶対的真理のないことを我々に教えるようである。知識はそれぞれの時代に相対的である。哲学にしても時代の子である。懐疑論も、絶対論でさえも、その時代の産物であるといわれるであろう。かように、すべてのものは歴史的に制約されていると考えるのが歴史主義の立場である。歴史主義は相対主義であり、そしてすべての相対主義の如く、それは懐疑論と虚無主義に陥ると批評されている。実際、もし真理がそれぞれの時代に相対的であるとすれば、絶対的真理は存在しないことになるであろう。しかしこの場合先ず注意すべきことは、心理主義が普通に個人主義的、主観主義的であるに反して、歴史主義は何等か超個人的なもの、民族とか時代とかというものを基礎とするのがつねである。歴史の主体は個人であることができぬ、それは何等か超個人的なもの、いわゆる客観的精神の如きものでなければならぬ。客観的精神は個人的な主観的精神に対し、個人がそこから現われそのうちに立っている民族の如きものであり、「このものが各人において客観性を形作る」、とヘーゲルに従っていうこともできるであろう。かように超個人的な客観的なものを基礎とすることによって歴史主義は、相対主義であるとしても、主観主義的心理主義とは異っている。もし事実として絶対的真理はないとすれば、論理主義はそれを当為ないし規範として、即ちある[#「ある」に傍点]ものとしてでなくあるべき[#「あるべき」に傍点]ものとして考えることになるであろう。歴史主義はかような当為の思想を主観主義であるとして、これに反対するという意味においてまた客観主義である。「ある[#「ある」に傍点]ことなくして単にあるべき[#「あるべき」に傍点]ものは何等真理性を有しない」、とヘーゲルはいっている。歴史主義は歴史において最も客観的なものを見るのであるから、それが知識の歴史的制約を考えることは単なる相対主義とは区別されねばならぬ。それは相対主義を含むが、相対主義に還元されてしまうのではない。その立場は我々のすべての知識が相対的であることを承認するけれども、それは絶対的真理がないという意味においてでなく、我々の知識のこの真理への接近の諸限界が歴史的に制約されているという意味においてであるといわれるであろう。かようにしてマルクス主義に依ると、絶対的真理は無条件に存在するが、我々の認識は歴史的社会的に制約されているから一度にそれに到達することができない故に相対的真理であり、しかし絶対的真理は「もろもろの相対的真理の総計」にほかならず、科学の発展におけるおのおのの段階はかような全体に新しい一粒を附け加えるのである。人類はその歴史的発展の全体において、この発展の
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