れもいろいろ影響を受けたが、中にも私が入学したのと同じ年に波多野精一先生が東京から宗教学の教授になって来られたのは、私にとって仕合わせなことであった。先生の名は『西洋哲学史要』、『スピノザ研究』、『キリスト教の起源』などの著書を通じて知っていたが、その頃先生の思想も新カント派に近かったようである。先生は最もプロフェッサーらしいプロフェッサーであった。私は先生から歴史研究の重要なことについて深く教えられた。また西洋哲学を勉強するにはそのいわば永遠の源泉であるギリシア哲学とキリスト教とをぜひ研究しなければならぬということを諭《さと》されたのも先生であった。その影響で私はギリシア語の勉強を始め、辞書と首引きでプラトンを読んだり、またキリスト教の文献に注意するようになった。これまでの自分を振返ってみると、私は考え方の上では西田先生の影響を最も強く受け、研究の方向においては波多野先生の影響を最も多く受けていることになるように思う。私の勉強が歴史哲学を中心とするようになったこと、あるいはアリストテレスなどの研究に興味をもつようになったこと、またパスカルなどについて書くようになったことは、その遠い原
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