Wが可能であるとは信じない。或る時彼は語つた、「輿論《よろん》においてひとが誤解され易いのには実に驚く。私は嘗《かつ》て民衆に対してどのやうな罪を犯したおぼえもない。然るに今ではすつかり民衆の味方でないと云はれてゐる。むろん私は掠奪や殺人や放火を企てそして公共の安寧のいつはれる楯にかくれて最も卑しい利己的な目的をねらつてゐる革命の輩の味方ではない。私はそのやうな人々の味方でもなければ、ルドウィヒ十五世の味方でもない。私は一切の暴力的革命を嫌ふ、といふのはそれによつて多くの善事が獲得されると同様にまた破壊もされるからだ。私は革命を実行する人も、革命に動機を与へる人も共に嫌ひだ。然しそれだからとて私は民衆の味方でないのであらうか。正しい感情をもつた人は誰でもこれとは違つた考へ方をするであらうか。」「我々に未来を期待させるやうな改良はどんなものでも私が非常に喜ぶといふことをあなたは知つてゐられる。然し既に云つたやうに、一切の暴力的なこと、飛躍的なことは私の性質に合はない、それは不自然だからである。」彼は却て「自己自身のうちに救済手段を一緒に含んでもつてゐる自然的な発展行程」に信頼し、そしてそ
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