分極性、諸衝動の間における反対を見、――特に『ファウスト』における「二つの魂」の思想は有名である――それからして彼は人間的発展の諸段階、社会の諸形態を展開した。相反する極に分化したものはおのづから第三のものに近づく傾向を具《そな》へてゐる。これを彼は高昇 Steigerung と呼ぶ。発展とは分極化を通じての高昇を意味する。高昇は凡ての存在の根本的衝動である。
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Wohin? Ach, wohin?
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Hinauf! Hinauf strebt's
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〔Aufwa:rts!〕
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ゲーテはガニメードの伝説のうちに人間の上へ上へと向はうとする衝動を見た。然るにこの衝動は既に自然のうちに「純なる太陽に向ふ」、「色どられたる地上に向ふ」衝動として含まれる。分極性と高昇とは自然の二つの大きな旋条である。「前者は物質を物質的に考へた場合それに属し、後者はそれを精神的に考へる限りそれに属する。前者は不断の牽引と反発であり、後者はつねに努力する登攀である。」自然の蔵する絶えず高昇してやむことなき衝動はゲーテには
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