、凡そ二百万騎、百万騎なら一繰りだが、槍繰りしても、八十石、益満休之助の貧棒だ。こう太くなっては、振り廻せぬ――」
 一人ぼっちになった南玉は、薄暗くなってくる部屋の中で、大声で、怒鳴り立てていた。綱手が
「南玉さん?」
 と、益満を見て、微笑むと、深雪は、袖を口へ当てて、笑いこけた。
「はははは、この盆が越せるやら、越せぬやら」
 益満は、笑って
「時に、七瀬殿、某と、小太との計《ほかりごと》が、うまく行く、行かぬにせよ、大阪表へ行って、調所を探る気はござりませぬか」
「さあ、話に――よっては――」
 七瀬は、八郎太の顔を見た。八郎太は、黙って、庭の方を眺めていた。廊下へ、灯影がさして、女中が、燭台を持って来た。深雪が振袖を翻《ひるがえ》して、取りに立った。
「のう、綱手殿」
「ええ?」
 綱手は、周章てて、少し、耳朶《みみたぶ》を赤くしながら、ちらっと、益満を見て、すぐに眼を伏せた。
「母上と同行して、大役を一つ買われぬかのう」
「大役? どういう?」
「操を捨てる――」
 益満は、強い口調で云った。綱手は、真赤になった。七瀬が
「それは?」
「場合によって、調所の妾ともなる。又、
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