に、一つの傾向だけが雪だるまのように広がり、大きくなるのである。例えばテレビジョンの発明まで、享楽的方面にすばらしい発達を見せている。処が、享楽的科学の発達は、人口増殖とか食物問題とかとは、概して矛盾した結果を齎《もたら》す。つまり、人間的生活は人間の自然的欲望の倫理作用より科学的なる倫理作用に支配さるるに到るのである。この科学文明の歪んだ道を、正当に引き戻すためだけでも、科学小説は、今や立派な使命を持っていると、云えるのである。

  四、愛欲小説

 現在までの家庭小説は主として恋愛小説であった。殆んど凡ての文学は恋愛事件を含んでいるから、一切の文学は恋愛小説であるとも云える訳だが、特に愛欲のことを取扱った小説を大衆文芸の一部門として分けてもいいと思う。
 ただ、今後の作者が特に、恋愛を取扱う場合に注意すべきは、恋愛を科学的に考察することである。精神的恋愛、肉体的恋愛、という古くよりの二つの区別を信奉するものは、新らしき恋愛小説は書き得ないだろう。私をして云わしむるなら、恋愛は八種類に分類し得ると思う。参考のために、以下少しく、恋愛について述べよう。
 一、思春期的恋愛。この時代の
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