大衆文芸作法
直木三十五
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)顧《かえりみ》る
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)正木|不如丘《ふじょきゅう》
[#]:入力者注。主に傍点や外字の位置などを示す
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]
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第一章 大衆文芸の定義
一体、定義というものを、物の進行中に、未だ完成されていない未発達の状態にある時は与える事はむずかしい。現在進行しつつある、発達の過程にはあるが未だ充分発達したとはいえない、大衆文芸に対して、現在のままの姿へ、定義というものを与えたなら――それは、与え得ても、直ちに不満足なものになって了うであろうと思われる。
併し、もしその将来を想像して、かく成るべき物が、大衆文芸であるというのなら、現在と共に、将来を包含して一つの定義を下し得ぬ事もない。それを下すに就いては、現在と、将来の外に、大衆文芸の歩んできた過去の道をも顧《かえりみ》る必要がある。私は、その点からこの講義を始めて行きたい
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