小説」第十六に「科学小説」と。こんな風に分類して行くなら、「競馬小説」「カフエ小説」「シネマ小説」……と何ういう風にでも分類ができる訳である。
然し、もしこれを内容的に見るならば、ただ二つに帰してくる。その一つは、興味中心、娯楽的、即ち事件の起伏波瀾、変化の面白さのみによって、読ませようとする物であり、他の一つは、勿論、そういう点も十分に考慮されて居るが、純文芸の目的たる、人間及び人生、社会等の探究、解釈をも含めている物である。
そこで、私は、次のように分類するのがいいのではないかと思う。
一、時代物
二、少年物
三、科学物
四、愛欲小説
五、怪奇物(広い意味の探偵小説)
六、目的、又は宣伝小説
七、ユーモア小説
一、時代物
時代物は、これを伝奇小説と歴史小説に分類する。
伝奇物とは、髷物であり、所謂大衆小説と称せられている処のものである。主として事件の葛藤、波瀾を題材としたものであって、従って興味中心的であり、多少は歴史的虚偽を交ぜても構わない種類のものである。
現代の日本の大衆作家の作品の殆んど凡てはこれであると断言することが出来る。
歴史小説と称ばるるものは、歴史的な史実の考証的研究の充分にされたものであって、歴史的事実は毫《ごう》も曲げずして、新らしき解釈を下した作品である。シェンキヰッチの「神々の死」等の諸作、フローベルの「サランボ」等の如きが例として挙げられ得るであろう。
二、少年物
主として想像力に基く一切の作品、大人の持っている分子の一切をも含めたものを、凡てこの題下に呼ぶのであって、怪奇物語、冒険、探険小説等々を包含するのである。例えば、「竹取物語」、「西遊記」、「アラビアン・ナイト」、スチブンソンの「宝島」、アミーチスの「クオレ」、マロオの「家なき少女」、トウエンの「ハックルベリー・フィンの冒険」「トム・ソーヤの冒険」、「ロビンソン・クルーソー」、「不思議の国巡廻記」等。
この種の創作には、殆んど我が国では手がつけられて居ないといってもいい。よき少年文学は、大人の文学作品の書ける上に、より充分な「空想力」が無ければ書くことは困難である。これを、只単に、年少の人の読物なりとして軽蔑し去る理由は少しも無いのである。それだけの理論さえ理解出来ずして、一端これを棄ててしまった文壇小説が益々|狭隘《きょうあい》な途に踏み込んでしまったのは当然と思われる。
現在、少年、少女小説は、一の転換期にあるように観察される。嘗て、少年を喜ばした処の、空想力に依った科学的探険談は、現在の加速度的なテンポで進歩して止む処を知らない科学の知識によって書き改められるべき時に到達しているのである。この転換期に於ける少年文学は、科学と空想とが如何に巧みに結合するかによって解決されると思う。旧き一切のものは、新らしきものの材料となり得るであろう。もし、現在日本の文学界に最も必要な小説を求むるならば、私は第一に少年文学を挙げるに躊躇しないであろう。
少女小説に到っても、同様である。現在の少女小説作家が、同性愛と古きセンチメンタリズム以外の何物も描き得ない時に、大人の愛欲生活の世界は、思想的にも経済的にも急速に変化しつつあるのである。かかる重大な危機に臨んで、果して現在の少女小説作家は如何に考えているのか、私は大方の少女小説作家諸君に問いたい。
三、科学小説
科学小説と称ばれる種類の作品例は、日本には皆無である。外国に例を取るなら、ハッガードの探険談。ウェルズの諸作品。近頃では、テア・フォン・ハルボウ女史のメトロポリスなぞが、そうである。科学の進歩発展した今日、日本にも当然創作されなければならないものである。私は現代に於ける進歩とは、科学の発展以外の何物でもあり得ない、と断言して過言ではあるまいと思う。精神文明、芸術的諸作品、と云ったものは頽廃しつつある。少くとも科学と比較する時は、退歩していると云い得るだろう。斯《かか》る時に当って、日本に未だ曾て科学小説の現れなかったというのは、日本人が如何に科学に対して無理解であったかを示すものである。と同時に、今後に於て科学小説の領域に全き発達の余地が残されていることをも指し示すものである。
科学とは、単に機械に対する驚異というような狭い意味の言葉では、決してない。私の意見に依れば、人間の生活は、自然的倫理作用より科学的倫理作用に支配されるようになって来た傾向がある。と云うのは、科学は、必ずしも人間の要求する幸福を実現する方向にばかり進んでるのではない。人間は、自然的な人格作用として、人口の増殖と食物の増加を望む。この自然的倫理作用の命令に従って、科学が支配されるならば、一年中に米が三度取れるようになっているべきだ。然るに、科学の発見があるごと
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